風に 揺れる 木々に
ひどく 心 浮かされる



陽のあたる場所で。―2―



「それはどういうコト?千代姉。」

才蔵の鋭い眼差し。
この瞳で射抜かれ、心動かされない者は居ないだろう。

「ふふ、相変わらずシビれる表情をするわね、才蔵。」
「・・・茶化さないでよ。一体、なにを企んで・・・・・・」




ピッ!




千代の人差し指が 才蔵の顔に向かって突き刺された。
一歩手前、鼻先まであと1cm足らずの場所で、彼はその指を受け止める。

「・・・私はね 才蔵、あんたの苦しむ顔だけは 見たくないのよ。」
低い声で、囁くように千代は言う。
笑ってはいたが、その顔はいつもの彼女の表情ではなかった。

「千代ね・・・」
「・・・そろそろいいわね、行きなさい!」

腑に落ちない千代の態度。
才蔵はとりあえずこくりと頷き 大木の頂まで、枝から枝へと飛び移った。



かしゃ、千代の手の中で、才蔵の眼鏡が小さく音を立てる。


「・・・・・・なにやってんのかしら、私。」


小さな呟きに呼応するかのように、サワサワと木々が疼いた。


千代はふうっと息をつくと 空を見上げ、頭上の太い枝目掛けて高く飛び上がった。
とたん、「ぎゃあ!」という間抜けな悲鳴と共に、何かが勢いよく地面に叩きつけられる。


陽が当たってきらきらときらめく、金色の髪。

「・・・・・・左介 みっけ。」




「・・・俺、千代姉がお姫を追うもんだと思ってた。」
じんじんという音が聞こえてきそうなくらいに痛む背をさすりながら、左介は涙目で千代を見た。
「・・・ははぁ〜、だから左介ってば、見つけられやすい場所に隠れてたんだー」
遠くに逃げたと見せかけ、実は敵のすぐ傍に潜むというのは、忍者であるからこそ成せる業だ。
「ノルマを果たした才蔵が、私に追われる姫を助けにいけるようにしよう、とでも考えてたんでしょ?」
完全に的を獲ていた千代に、左介は言葉もない。

「残念だったわね、思惑外れで。」
「うっ・・・うるせぇっ!!」
剥れる左介を見、千代は優しく微笑む。

「・・・前から言おうと思ってたんだけどね、左介。
あんた、ちょっとは自分のためにも動いた方がいいと思うわよ。人のためばっかじゃなく。」

「・・・どういうこったよ・・・」

「私は人のために動くコトはあっても、自分という存在を忘れたコトはないもの。
・・・だから、いつも私を追いかけてくる人を たまには自分が追ってみてもいいかな、とか自分勝手に考えられるってコトよ。」

「・・・えっ・・・。」

左介の顔に、熱が昇った。


決して、考えていなかった状況。
予想していなかった事態。


いつもは追いかけ、あしらわれる立場の自分が・・・・・・・・・?


「・・・でも、こんなに簡単に追いついてしまったわ。」

そう言うと、千代は はしっと左介の腕を掴んでしまう。
どっきん と、左介の心臓が音を立てた。

「ち、千代姉・・・・・・・・・」
「あーあ、相手が才蔵じゃ、こうはうまくいかないのよねぇ〜」


がちゃん、左介の心の中で 何かが崩れた音がした。
心無い千代の一言に、がっくりと肩を落とす。
そんな彼を横目で見、千代はふふっと楽しそうに笑った。

同時に、きゅうっと優しく握られる手。





・・・・・・・・・でも、ちょっとは前進できた・・・よなぁ?





この答えを求めるかのように、左介は千代の柔らかい掌を、そっと握り返した。




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