ONE DAY something 〜太陽のためいき〜



片手には教科書。
片手にはノート。

あ、筆記用具がないと始まらない。
もちろん、下敷きも忘れずに。





お菓子は・・・やめとこう。
私の家庭教師はものすごーく厳しいから、休憩なんてさせてくれないもん。





咲十子は物理の宿題を持って、部屋を出た。
リビングでは彼が待っているはず、こう思うとゆっくりしてはいられない。



長く待たせたら、皮肉たっぷりの文句が返ってきそうだ。



ぱたぱたと走っていくと、何かあわただしい雰囲気だった。



「・・・あれ?」



リビングに入るなり、咲十子は立ち止まる。
自分に物理を教えてくれるはずの彼が、よそ行きのスーツを着て忙しそうに書類に目を通している最中だったから。



「風茉くん、今日、お休みって・・・言ってなかった・・・っけ?」



おずおずと尋ねると、風茉はすまなそうに咲十子を見た。



「ごめん、急に仕事が入ったらしくて・・・」

言いながらも、手は忙しなく動いている。

「・・・そっか。」





仕方ない。仕事だもんね。
風茉くんは和久寺の御当主で、社長さんなんだもの。

咲十子は、自分に言い聞かせた。







「いってらっしゃいませー!」

メイド達に見送られ、風茉と秘書の鋼は屋敷を去った。

残された咲十子。
机の上には行き場のなくなった教科書たち。

「…ああ、宿題 どうしようかな・・・」




◆◇◆




風茉くんははっきり言って、なんでもできる。
頭もいいし、運動神経だって悪くない。
ただ、ちょっと上流な生活をしていたから、普通の人が知っているコトを知らなかったりしたけれど。
それでも なんでもすぐに覚えちゃったし。



「風茉くんってさ、すごいよね〜」

午後のテラス。今日はお天気だからとママに誘われて、優雅にティータイム。
そこで急にママが私にふった話題。
聞くなり、思わず紅茶を吹き出しそうになっちゃった。



「・・・なあに ママ、いきなり・・・」
「いや〜ね〜なんとなくv今日の彼見てたら そう思っちゃってさぁ〜」



あんなにスーツの似合う十歳はなかなかいないよ。

そう言って、カラカラ笑うママ。



「そりゃそーよ、だって風茉くんだもん。」

「勉強だって教えてもらってるもんね〜 咲十子は。」

「だって、風茉くん 私よりも頭いいもん。」

「7つも年下なのにね〜」







ぐさ。







あ、なんか刺さりました、ママ・・・・・・・・・







「風茉くんは、すごいよ。」



かちゃん、私は静かにカップを置いた。





私よりなんでもできて。
俗に言う、天才少年で。
いろんな辛い思いをしてきたのに、
それでも、ご両親の意志を継いで 会社を守っている風茉くん。





あの小さな肩に、どれだけのものを背負ってるのかな?



私は、風茉くんのために なにをしてあげられるのかな??









◆◇◆









「・・・咲十子、そんなところで寝てると風邪ひくぞ。」

「・・・ん・・・」





見上げると、風茉くんがいた。





あれ、私・・・・・・・・・ 風茉くんの部屋で帰りを待って・・・たはずなのに。
ぼーっとしてるうちに、寝ちゃってたんだ。



「ふ、風茉くん 帰ってたんだ〜」

ああ、まぬけだな。待ってた人の部屋で 寝ちゃうなんて。





風茉くんは ちょっと呆れ顔。
私はえへへって ごまかし笑い。







「・・・で、なんか用だったのか?・・・まさか物理の宿題がまだ終わってないとか・・・」







あ、宿題。

忘れてた。





でも、物理より大事な用事。



「そーじゃなくてね、私も何か風茉くんのためになるコトをしてあげたいなーって思って。」

「・・・はぁ?」



要領得ないって顔をしてる風茉くん。
私 そんなにへんなコト言ったかな?



「あのねっ 私、勉強とかじゃ風茉くんに敵わないけど・・・何か、風茉くんの役に・・・」

風茉くんの肩が小刻みに揺れた。



「・・・・・・ぷっ・・・・・・あははははははっ・・・」

「・・・えっ、ふーまく・・・」



わ、笑われた??













それから暫く、笑い声は続いた。
風茉くんは笑いすぎてヒーヒー言ってる。



・・・だからって、なにも泣くまで笑わなくてもいいと思うんだけどなぁ〜・・・。





「ふー・・・急にどうしたんだ 咲十子?」

落ち着いたらしい風茉くんに問われた私は、おそるおそる答える。

「・・・どーもしてないケド、私、風茉くんのためになってるのかなって・・・」

「え?」

「だってそうじゃないっ 私、風茉くんに何もしてあげてないっ!」



優しいあなたに 甘えてばっかり。
抱えきれないくらいのものを もらってばっかり。



親切の押し売りとか、そんなんじゃなくて。
ただ、あなたに何かしてあげたいの。







・・・・・・これは 私の我儘??











ふ・・・っと 風茉くんは笑った。



「・・・俺は、もらってるよ、咲十子に。見えないモノ いーっぱい!」







え?



「そんな、私、何も・・・・・・・・・」

考えてみるけど、思い当たらない。

そのまま暫く、沈黙が降りた。











いつまで そうしていただろう。







「・・・そんじゃ、さ・・・これからもずっと、俺のそばにいてくれる・・・??」



押し殺した風茉くんの声に、私は がばっと顔を上げる。



「えっ・・・」







これからも  ずっと  風茉くんの  そばに・・・・・・??







かぁぁっと顔に熱が昇った。
なんだか、くすぐったいよ。





「でっ・・・でも 風茉くんっ、ソレって当たり前のコトだよ!?わざわざ・・・・・・」

「いーんだっ 俺は ソレがうれしーんだからっ!!」





怒ったように 風茉くんは怒鳴った。
その表情は、前髪に隠れて よくわからなかったけど。







「・・・返事は!?」





「・・・え、あ、はいっ!!」







『これからも  ずっと  そばにいるね』











結局 私は風茉くんの役に立てたのか、



よくわからなかったケド。









風茉くんが嬉しいのなら   それでいいかな。







おまけ



咲十子「あ、風茉くん、物理の宿題 教えて・・・?」
風茉「(やっぱりしてなかったか・・・)いいけど、今夜は寝かせないからな。」
咲十子「ひぇ〜、 やっぱりスパルタだよぉ〜〜〜」




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