陽のあたる場所で。―4―



大木の前には、もう誰も居なかった。


「晴海と健三まで先に帰るなんて・・・薄情なものね。」

むうっと剥れるしの の横に立っている才蔵は、いささか青い顔をしている。

「才蔵?どうしたの??」
「眼鏡が・・・ありません・・・・・・。」
「・・・・・・はぁ?」



しのを捜しに行く前に千代に取られた才蔵の眼鏡。
木の周りをいくら捜しても、それらしきものは見つからなかった。

「三好さんたちが 持っていてくれてるんでしょうか・・・?」

しかし、その考えは 甘かった。


枝にくくりつけられている、小さな紙に気が付くしの。
何気なく広げて 最初の一行を見た瞬間、ぎょっとしてしまう。


「『才蔵の眼鏡は私がどこかに隠したわ。これもひとつの愛の形v------千代vv』ですってぇ!?」

なにが愛よぉ〜〜!?と叫ぶとともに、びりびりと手紙を引き裂くしの。



「あああ・・・千代姉・・・一体ドコに??」



ここからまた、ふたりの本当のかくれんぼが始まるのであった。









じりじり  じりじり

照りつける太陽。

日中、太陽の日差しとは こんなに強いものなのか。


しのは吹き出る汗を拭うと、恨めしそうにかんかん照りの空を睨んだ。


大きな木の下、必死に地をはる少女と それを追いかける少年。
揺れるふたつの濃い影。




「しのぶさま、もういいですよ。」
「よくないわよっ!!」
「・・・しかし、これ以上ここにいると しのぶさまが授業に遅れてしまいます!」

硬いことを言う才蔵。
だいたい眼鏡がなくて困るのは、他でもない才蔵ではないか。
二言三言文句を言ってやろうと振り向くしのであったが、才蔵はしゃがみこんでいた彼女を上から覗き込むようにして立っていたので、ふたりは吐息のかかりそうなくらいの距離で目をあわせることになってしまった。

「・・・ッ!?」

才蔵の顔を間近で拝む結果になってしまった彼女は、真っ赤になってあとずさる。
ばくばくと音を立てている胸を抑え、しのは はぁっと溜息をついた。

「お、お前・・・びっくりさせないでよ・・・。」
「・・・なにか?」

目が悪いというのは、ときに心臓にも悪い。
頭に昇った熱を払いながら、しのは こほん、と咳払い。

「あのね、たとえ授業に間に合ったとしてもよ?才蔵は眼鏡がないと困るでしょ!?」
「・・・・・・それは、才蔵の身を心配なさって・・・・・・?」
「ちがっ・・・才蔵がしの のノートを代わりに取ってくれないと・・・しのが困るって言ってるの!!」
言いながら、意味もなく足元の雑草を抜いているしの。





・・・・・・・・・照れ隠しのつもりなんだろうな・・・・・・・・・。



才蔵は、静かに微笑んだ。




これは、なんと言えばいいのだろう。
幸せだという一言でも、足りないくらいに。





「・・・授業、サボっちゃいましょうか・・・。」





言葉にできない気持ちを埋めたくて。



そっと、彼女の手をとった。




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