Bitter Sweet Mystery(後編)


さて、探偵社ではロキが出かける準備をしていた。
ココに留まっていても仕方がないと思ったからだ。

「・・・まずは・・・まゆらパパに聞いてみるか。」

一番まゆらの行動を知っていそうな人物。
しかし さっきの鳴神の様子からすると、たとえまゆらパパが何かを知っていたとしても ロキには教えてくれないだろう。
ダメもとで神社へ行ってみるロキであった。


「なに、まゆらの秘密??」

行くと、まゆらパパは境内の掃除をしていた。
ロキが昨日のまゆらの様子を話すと、まゆらパパは手を止め、う〜む・・・と腕組みをして考え始める。

「なんでもいいんだけど・・・なんかの記念日とかさ、心当たりない?」

ロキの言葉に、まゆらパパは一層身体を反らせて考えている。

「・・・そういえば・・・昨日は夜中まで台所でごそごそやってたな〜・・・ま、まさか・・・」

震えながら振り向き、ロキの方を見るまゆらパパ。
見られたロキの方は、ワケが解らないままだ。

「・・・どうしたの?なにか・・・」
「まゆらぁ〜〜!パパは絶対に許さんからなぁ〜〜!!」

ロキの問いにも答えずに、まゆらパパは遠くへと消えてしまったのだった。
残されたロキは、まゆらパパの起こした砂埃にむせている。

「けほけほ・・・なんだよ、まゆらパパには分かったのかー・・・
プニャン大量発生させてでも吐かせるつもりだったのにな、逃げられた、ちえっ・・・」

いなくなった者には事情聴取はできない。
ロキは収穫のないまま、神社を後にしたのだった。





商店街。朝のこの時間は 学生達が多い。通学路だからなのだろう。

ロキは独り、この道を歩いていた。

「まゆらパパは『台所』と言っていたから、まゆらは昨日、なにか料理を作っていたというコトか・・・」

こう考えたロキは なにかヒントになるものはないかと、コンビニへ向かっていた。
十字路にさしかかったとき、遠くに小学生ぐらいの女の子が見えた。

「・・・あれ、レイヤだ・・・」

ロキの視線の先には、通学途中のレイヤ。なんだかご機嫌だ。
ロキには気づいていない様子で、陽気に歌なんて歌っている。

「きょうはぁ〜ロキさまのお家に行くですぅ〜vそしてコレをプレゼントするですよぉ〜♪」

よく見ると、レイヤの腕には紙包みが抱かれていた。そしてさらに歌は続く・・・・・・

「♪まゆらサンが教えてくれたですぅ〜v物知りデスねぇ〜まゆらサン〜vv」

そのまま、レイヤは歩いていってしまった。

「・・・まゆらに教えてもらった?・・・ボクにプレゼントって・・・」


レイヤのプレゼントとまゆらの行動には、つながりがあるのだろうか。
ロキには解ったような、解らないような・・・・・・







昼食抜きで頑張ったが、はっきりとした証拠は見つからなかった。
そして結局、まゆらがいつも来る時間になる。



「・・・遅いな〜〜〜・・・」

ロキは先回りをして探偵社の玄関前にいた。まゆらに昨日のことを問いただすためだ。
目を凝らして通りの向こう側を見ると、遠くから走ってくる人影が彼女だと判った。
はぁはぁと息を切らせてやってきたまゆらは、出迎えにいたロキを見て きょとんとしている。

「・・・あれ、ロキくん・・・わざわざ迎えに来てくれたの??」
「・・・・・・まあね。そんなトコ。」

ロキは落ち着き払って答える。
まゆらはそんな彼を見て、嬉しそうに笑った。
しかし、ふとなにかに気づいたらしく、笑うのを止め、ロキの手を取る。

「な・・・まゆら!?・・・いきなりなに・・・」

突然の彼女の行動に、うろたえるロキ。

「・・・やっぱり・・・ロキくん、手 すごく冷たい・・・。」
「・・・え・・・?」

ロキは気づいていなかったが、ほぼ一日中外を出歩いていた彼の手は 氷のようになっていた。

「・・・こんなコトなら、手袋にすればよかったなぁ・・・。」

まゆらはごそごそと鞄を探る。


そして出てきたのは、大きな包みと小さな包み。

「ハイ、ロキくんっ!」

まゆらはにっこりと笑って、これらをロキに差し出した。

「・・・?なに、コレ・・・」

ロキは、貰った包みの大きいほうを開けてみる。すると中には・・・・・・・・・・・・・・


「これ・・・自分で作ったの?」
「・・・うん。あんまり上手くナイんだケド・・・」

ロキに尋ねられたまゆらは、頬を赤らめながら答えた。
中身は、手編みのマフラーだったのだ。


「・・・でも、どうしてボクに・・・?」

未だわけの解らないロキに、まゆらはけろっとして言った。

「え、だって 今日はバレンタインだもん!」

彼女の言葉に、ロキは呆気をとられた。そして同時に、笑みがこぼれる。


いろいろな嬉しさが入り混じった笑い。

そんな彼につられて、まゆらも笑顔だ。

「ね、ロキくん、マフラー巻いてみて!」
「う、うん・・・」

まゆらに強請られ、ロキはマフラーを巻いた。

「わぁ〜やったね、ピッタリvさっすがはまゆらちゃん!ロキくん、似合うよ〜v」
「・・・まあ、あると便利だからね。もらっとくよ。ありがとう・・・」

ロキは照れくさくて、俯いてしまう。
彼の心中なんて察していないまゆらは ど〜いたしまして!、と微笑んで 今度は小さな包みの方を指差した。

「そっちのはね、チョコレートなんだ!まゆらちゃんお手製。・・・ロキくん、甘いもの好きだよね??」
「うん。でも まゆらが作ったのかぁ〜味の方は大丈夫なの??」
「大丈夫だもんっ!!とびきりあま〜くしたんだから!!・・・なんなら 食べてみる??」
「あはは、ここじゃ寒いよ。中に入ろうか?」

今すぐにでも包みを開けそうな勢いのまゆらを制して、ロキは笑った。
まゆらの手を引いて、ロキはドアを開ける。




まゆらのくれた甘い、あま〜いチョコレートは、ほろ苦い心のもやもやを溶かしてくれた。


・・・・・・空から降りてきた、粉雪と共に。




―――冬、ソレは恋人達のsweet season





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