満月の夜ってね、みんないつもと違うんだって。




まんげつのよるには。



「まゆら、そろそろ帰りなよ。まゆらパパかんかんじゃナイの?」

燕雀探偵社。いつもの部屋で、ロキくんは本棚の整理をしてる。
その横で私もお手伝い。闇野さんお手製の夕食をごちそうになった後に。

「ちょっとまゆら、聞いてんの?」

ロキくんの言葉に、私は手に取っていた本を棚に片付けると、ふうっと溜息をついた。

「聞いてるよ、ロキくん。平気だよ〜」
「何が平気なのさ。だいたい今何時だと…うわぁっ…」

声を荒げたロキくんは、乗っていた踏み台の上でバランスを崩してしまった。

「きゃ…ロキくん……!!」



どしん!



部屋に響く、鈍い音。





「…ロキくん、大丈夫??」

私はなんとか上から降ってきたロキくんを抱きとめる。
いつもよりも近い位置で目が合って、ロキくんは慌てたように私の膝から飛びのいた。
ぱんぱんと服のほこりを落としながら、ロキくんは言う。

「とっ…とにかくもう遅いし…帰ったら?」
「へーきなんだったら〜!
パパ、今日は新山さんとウチで飲み会してて、今帰ったらお酌やらされちゃう!」

酔っ払い二人が待つ家に、帰りたくナイもん。

「…そういうコトなら、しょうがないか…」

ロキくんはしぶしぶ頷いた。







◇






…満月の夜はいつもと違うって言うケド、なにがとう違うんだろう……。





「ありがとう。」

まゆらは、ボクの入れたお茶のカップを受け取る。

「うん、おいしい!」

そして、めいっぱいの笑顔を向けてくる。

「…あったり前だろ、このボクが直々に入れたお茶だもん!」





……キミの笑顔に見惚れてた、なんて言えないから。





ボクも自分のカップを取って、口に運ぶ。

静寂。

響くのはカチカチという、時計の規則正しい音のみ。





「…そういえば、闇野サンはどこ行っちゃったの?」

沈黙をやぶるかのように、まゆらが口を開いた。

「ああ、ナルカミくんに『部屋の掃除してくれぇ〜』とか言われて連れて行かれたよ。」
「ふ〜ん、珍しいよね…二人だけが一緒なんて。」
「……そういえば、そうかも……」

ヤミノくんはナルカミくんが苦手だからなぁ…無理もないケド。

ふとまゆらのほうを見ると、なにやら難しい顔をしていた。

……なにを考えているのだろう。まゆらにも悩み事なんてものがあるのか?

暫く観察していると、彼女は無言で立ち上がった。





◇






満月って、見てるとどんな気持ちになるのかな…?





私は椅子から立って、まっすぐ窓の方へ向かってた。

『謎を解くためには、ますそのものを見極めなくっちゃ。』

誰かが言っていた言葉。

かちゃ、静かに窓を開けると空を見上げる。

そこにはまんまるくて銀色の月。

「まゆらが何を考えてたか、当ててみようか?」

気が付くと、隣でロキくんが笑って私を見てた。

「『満月の夜は、なんかいつもと違うな〜』だろ?」
「え…うん。ロキくん、なんでわかったの??」
「な〜んとなく。それより、さすがにもう帰った方がいいよ。送ってくからさ。」




私、今度は素直に、うん って頷いた。







「やっぱりロキくんはすごいなぁ。何でも解っちゃうんだね!探偵の鏡だよ〜!!」

帰り道。

私はさっきの感動を口に出さずにはいられなかった。

ロキくんは、なんだか呆れた顔をしているみたい。

「なんでもって…ボクにだって、解らないコトはたくさんあるよ…。」

そう言うと、彼は静かに天を仰いだ。







◇






月に聴けば、教えてくれるのだろうか。





『何でも解るんだね』



彼女の言葉に、ボクは吹き出しそうになった。

解らないコトだらけのボクなのに。





「でもね まゆら、ボクには満月の夜が普段とどう違うのかなんていうのは解らない。」

当然のコトだ。誰にも解るコトじゃナイのに。

思わず真面目に言ってしまった自分が少しおかしくて、ボクは彼女の反応を窺ってしまった。

「うん、私も分かんないや〜」

えへへ、と はにかむ彼女。

それは、いつもと同じ反応。

もうこの話はお開きだな…そう思ったとき、まゆらは言った。

「でもね、ひとつだけ解るコトもあるよ?」
「……なにが?」

ボクが溜息をついて尋ねると、まゆらはふふっと微笑んだ。





◇







満月の夜にだって、変わらないコトもあるの。





「…笑わないでね?」

ロキくんに釘をさしておく。私だって照れるコトもあるんだから。

「なんでもいいから、早く言いなよ…。」

ロキくん、しびれをきらしてる。

「…あのね、満月の夜でも、ロキくんは優しいコト!」

心からの言葉だったのに。

ロキくんったら、呆気に取られてる。

そして、ぷくく…って笑った。

笑わないでって 言ったのに!



「…ソレならボクにだってあるよ?まゆらは満月の夜でも変わらず能天気なコト〜とかね!」 「もぉ〜なにソレ〜〜!!」

気づくと、私の家の前。

「じゃ〜ね、まゆら。また明日!」
「えぇ〜ひどいよ〜ロキくん〜〜!」

言いたいコトはいっぱいいっぱいあったケド。

明日もあるって、ロキくんも言ってくれたもんね。





だから、今日のところは許してあげる。





◇






満月の夜でも変わらないコト。

それは、素直になれない自分。





まゆらを送った帰り道、ボクは満月を見て思った。

頬を染め、キミがくれた言葉が嬉しかったのに。

ボクは言えなかったんだ、本当のコトを。





本当に変わらないで欲しいもの、ソレはキミの笑顔。

…いつでも優しいキミ、なんてね。







その頃。


闇野「鳴神サン、掃除おわりましたぁ〜」
鳴神「お〜っし!んじゃ〜次はメシ作ってくれ!」
闇野「ひぃぃぃ〜はいぃぃぃ〜!(助けてくださいロキ様ぁ〜;;)」





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