チョコレート・キス




「鳴神くんったらヒドイよぉっ!」



まゆらは涙目、上目遣いでロキを睨んだ。
いきなりこんな瞳を向けられたら、さすがの彼も「う…」とたじろぐしかない。
「しょうがないじゃん、まゆら…」
「しょーがなくないもんっ!」
間髪入れないまゆらの反論。


その原因は、テーブルの上にあった。
今年もクリスマスケーキ配りのバイトをすることになった鳴神にもらった大きな大きなチョコレートケーキ。
「よりにもよって、どーしてビターチョコレートなのぉ〜!苦くて食べられないよぅ〜……」
えーん、と子どものようにべそをかくまゆら。
当の鳴神は、この事態を予測してかケーキを届けると、すぐに帰ってしまった。

ロキはため息をつき、切り分けられたケーキのかけらを、ぱくっと自分の口に放り込む。
「ビターって言っても、普通に食べられるよ、ホラ。」
「だけど…さっきちょびっとクリームをなめたら、苦かったもん…」
「そんなコト言わずに、一口だけでも食べてみたら?」
「いいよぉ…苦いもん…」
「…ほんのちょっとでも?」
「いいの!今年のクリスマスケーキは諦めるよ……」
ロキがまゆらの顔を覗き込んで問いかけても、まゆらはぶるぶると首を横に振るだけだ。

「ここまで頑固になられると、どうしてでも食べさせたくなるんだケド。」
「ソレってどーゆこ………」
まゆらは最後まで言葉を続けられなかった。
目の前には、悪戯っぽい笑みを浮かべたロキの顔。
「………っ!!」

彼の行為により、まゆらの顔は一瞬で真っ赤に染まる。
口の中にじんわりと溶けてゆくクリーム。
まゆらがこくん、と飲み込むのを確認すると、ロキは満足げに微笑む。

「甘い?」

彼の問いかけに、まゆらは首を縦に振った。
「もう一口、どう?」
「うぅ……ロキくんってば……」





糖度八割増し(当社比)

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