誰も行ったことのない光の中へさらわれていくような、
そんなキミを、ボクは見つけられる……?
Wish
神社で毎年開かれるお祭。
また今年も例年と同じく、そこは人でごったがえしていた。
その中に、ぎゅうぎゅうと人ごみを掻き分けて進んでいく男女が一組。
長身の青年と、彼に手を引かれている少女。
彼女はいつもはセーラー服であるが、今日はお祭ということで 紺色に赤や黄色の模様の入った浴衣を着ており、色素の薄い髪の毛は大人っぽく結い上げていた。
「まさか、こんなに人が多いなんて思わなかったなぁ…まゆら、大丈夫?」
振り向いたロキに、まゆらはこくんと頷く。
彼女にしては、えらくしおらしいなぁ…とロキは思った。
「どーしたの、まゆら?」
「え??なんでもナイよ…?」
なんでもないワケがない。
まゆらは戸惑っていた。
ついこの間まで自分の半分ぐらいの歳だと思っていた少年に、今はこうしてエスコートされているのだ。
見上げるとちらりと覗く 彼の横顔。
まゆらは不意に、顔が熱くなる。
真っ赤であろう顔を隠すために、まゆらはがばりと俯いた。
しかし、そんな彼女の視線の先には、人ごみではぐれないようにとロキにしっかりと握られた手が見えて。
まゆらは、さらに頬を赤らめてしまうのだった。
さらさらと揺れる、ロキの金色の髪。
ソレは、小さな提灯の光にも反射して。
まゆらは。目を細めた。
―――どこにいても、見つけられると思う。
だって、こんなにも眩しいんだもの。―――
光は、だんだんと彼女の目の前から離れていく。
それでも、彼女の瞳には 彼の後姿がしっかりと映っていた。
―――ホラ、ね。見失わないもん!
そしてだんだんと、その姿は小さくなっていく。
まゆらは目をこらして行方を見ていたが、ソレはついには見えなくなって。
「………って、あれぇ??」
まゆらは、ロキと繋いでいたハズの右手をじっと見やる。
さっきまで感じていた温度は、気がつくとなくなっていた。
たらり、と 冷たい汗がまゆらの頬を伝う。
「……もしかして、はぐれちゃった…??」
普通の女の子なら、ここは慌てるところだろう。
しかし彼女は暫く考えた後 ぽんっと手を叩くと、カラコロと下駄を鳴らして また歩き出すのであった。
◇
「まゆらーーー!」
人ごみの中、ロキはさっきまで隣にいた少女の名前を呼び続けていた。
周りの人間に向けられる視線なぞ、気にしてなんかいられない。
「…ったく…一体どこに行ったんだ…?」
ロキは額に滲む汗を拭うと、せっかく二人っきりになれたのにさ…とぽつり、呟く。
雑踏に雑じって、シャンシャンと 鈴の音がロキの耳に届く。
やがて境内の側まで来ると、忌々しかった人垣がやっと途切れた。
ロキはふうっと息をつき、腰を下ろす。
聞こえるのは、ざわざわと枝の揺れる音だけ。
さっきまでの賑やかさが 嘘のように思える。
ロキは自分が通ってきた道の、その一際眩しい一点を見つめた。
本当なら、今ごろあそこをまゆらと歩いているハズだったんだケドな………。
そう考えると、なんだかやるせない。
知らぬうちに また溜息が出てくる。
そのとき、ロキの頭上の木が がさりと揺れた。
同時に落ちてくる、数枚の木の葉。
ロキが 何事かと空を見やると、そこには。
「…まゆらぁ!?」
思いもかけない場所にいた彼女。ロキは思わず 素っ頓狂な声を出してしまった。
まゆらはそんな彼の呆気に取られたような顔を見、えへへ、と笑った。
「えっとね…はぐれちゃったから 木の上からロキくんを捜そうかと思って……この木、神社で一番高い木だったの。それで………」
困ったように弁解をするまゆら。
そんな姿を見せられると、ロキは文句も言えない。
「……まぁ、見つかってよかったよ。…今度からは 独りでどこかへ行かナイよーに。」
「はぁーい、ごめんなサイ……。」
しゅんとなる彼女の姿に。
まるで、子供を相手にしてるみたいだ。―――ロキは思わず吹き出しそうになった。
笑いを必死に堪え、ロキは今だ木の上にいるまゆらに問いかける。
「ところでまゆら、いつまでそんなとこにいる気なの?」
「…えっと、言いにくいんだケドね、降りられなくなっちゃった……」
「……ふ……あはははははっ……」
「えっ……ロキくん??」
まゆらの言葉に、ロキは声を立てて笑い出した。
せっかくの我慢は水の泡だ。
―――本当に、キミは 予想のつかないコトをする。
「ホラっ!」
ロキはまゆらに向かって、ぱっと両手を広げた。
まゆらにはその意味が解らず、きょとんとしている。
「……なあに??」
「ボクにの方に飛び降りなよ。絶対受け止めるからさ。」
「えっ!?でも、ロキくんが怪我しちゃうかも……っあっ!?」
がくっ……まゆらの身体が斜めに揺れた。
慣れない下駄で、足を滑らせたらしい。
まっさかさまに ロキに向かって落ちていく。
まゆらは思わず、ぎゅっと目を閉じた。
「……っ…あれ……?」
そっと目を開けるまゆら。
するとそこに、優しく微笑む青年が見えた。
まゆらはほおっと息をつくと、ありがとう、と呟く。
「………おかえり。」
「……ただいま、ロキくん……。」
ぱーん。
辺りに大きな音が響き、閃光が舞った。
「花火、始まったね。」
ロキを見上げる、まゆらの大きな瞳に。
―――今、彼女は自分の腕の中にいる。
こう思うと、なんだかとても 幸せで。
ロキはぎゅっと、まゆらを胸に抱いた。
ぱーん……花火がもうひとつ。
闇の中、明るい光に照らされた二人の影は、重なって まるでひとつに見えて。
「もう絶対、離さないから………。」
星さまのリクエスト、覚醒ロキまゆ小説でしたー。
どうもありがとうございました!
