やさしく 頬をなでる
この風に 導かれるように
そして辿り着いたのは 特別な 場所




Twin memories



 「今日のメニューは何かなぁ?楽しみだね、スピカちゃん!」
 「……うん。」


商店街の奥の方から 楽しそうに笑いながら笑いながら歩いてくるふたり――まゆらとスピカ。
夕暮れ時のこの時間、彼女らは探偵社の台所を取り仕切る闇野の代わりに 夕飯の買い物をしに来たのである。 …ちなみに、闇野が来れなかったのは、彼が最も苦手とする来訪者のせいだったりするのだが。

「よしっ、メモにあるモノは全て買ったし、鳴神くんもお腹をすかせてたみたいだから早めに帰ろっか!」
まゆらの言葉に、スピカもにっこりと微笑んで頷く。



辺りは 春真っ盛り、という感じであった。
最も今はもう夕方なので 風は少し冷たかったが、昼間は温かい窓際でうたたねするには丁度良い気候でもあるし。
道に咲くたんぽぽやすみれ―――こんな小さな命の息吹からも暖かい季節の訪れを感じた。


少し草の茂った道に差し掛かったとき、ふとスピカが足を止めた。
なにがあるのか くんくんと鼻を動かすと、そのまま横道に入ってゆく。
 「す、スピカちゃん?」
突然の彼女の行動に、きょとんとするまゆら。
何かあるの??と背後から問いかけてみても スピカは何も答えてくれず、不思議な力に引き寄せられるかのように木々の間へと消えていった。
 「あっ…待ってよぅ〜〜!」

まゆらは慌ててスピカの後を追う。
獣道のような場所を 草を掻き分け歩いていくと、広い空き地のような場所へと辿り着いた。
その真ん中で スピカは立ち止まり、自分の背丈と同じくらいの木を眺めている。
 「もうっ スピカちゃん、いきなりどうしたの??」
まゆらは急いで彼女の方へ歩み寄る。
ほのかに、甘い香りがした。


目前の木になっていた、赤い つぶつぶの実。
ふと、まゆらは自分が小さい頃に、父親に連れられて山歩きに行ったことを思い出す。
そのときに 同じような実をみたような気がした。
 「あれ、コレって木苺かなぁ…?」
 「……きいちご??」

「とってもおいしいんだぞ〜」とその赤い実を食べていた父親。
あまりに古い記憶なので、定かではないのだが。


 「…たしか 食べられたと思う……って、スピカちゃん!?」
言うが早いか、スピカは既に その赤い実を二、三個口に入れていた後だった。
もぐもぐと口を動かして平然と食べているところを見ると、どうやら大丈夫だったらしい。
 「……おいしい??」
おずおずとまゆらが尋ねると、スピカはにっこり笑って頷いた。
 「…うん。まゆらも一緒に、食べよ?」



甘酸っぱい香りが口の中に広がる。
―――なんだか懐かしいような、不思議な感じ。



 「コレ、ジャムにするといいかも…バスケットかなにか持ってくればよかったぁ〜…。」
残念そうなまゆらに、スピカは何を思ったか すっと小指を差し出す。
まゆらにはその意図が解らず、小首を傾げた。
 「ん、なぁに??」
 「また今度、ふたりで摘みに来よう…?だからココは、ふたりだけの秘密の場所……ね?」
こう囁くと、スピカは自らの小指をまゆらの小指に絡め、そっと揺らした。




ゆーびきーりげーんまーん。


彼女はこう、言いたかったのかもしれない。




結局 燕雀探偵社に着いたのは、日がとっぷり暮れてからだった。
そして ドアを開けたふたりを待っていたのは、腹をすかせて血走った目をしていた鳴神と、そんな彼とは対照的に 涙をいっぱい溜めておびえた目をしていた闇野の姿であったとか。


 「でもホントに遅かったよねぇ〜…一体ふたりで何してたの?」
館の主、ロキの問い。
刺すような眼差しを向けられて、まゆらは返答に困ってしまう。
もともと嘘がつけない性分の彼女だ。
上手い具合に切り抜けられないことは、そこにいる誰もが目に見えていた。
 「えっ…えっとぉ〜……」
しどろもどろになっている彼女の横から、急にスピカが顔を出した。
ほわほわした髪の毛が揺れている。
 「…す、スピカちゃん…。」
自分の代わりに何かいい言い訳を思いついたのかと、安堵の表情になるまゆら。
すると、スピカは きゅっとまゆらの手を握り、


 「……ふたりだけの 秘密!」


こう、言い放った。

これにはそこにいた男衆も唖然とするしかなく。
ずんずんと部屋の奥に入っていくスピカと、そんな彼女に引きずられるように歩いていくまゆら。
ぱたん、とドアの閉まる音。

 「…『ふたりだけの 秘密』、ねぇー……。」


彼女たちの後姿を横目で見つつ、少々フクザツな気持ちになったロキであった……。






青空の下、甘酸っぱい香りに包まれる。




そんな、ふたり。





梨織 沙雪さまのリクで、スピまゆスピ、まゆらとスピカの友情モノ文でした〜。
どうもありがとうございました!

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