つまさき立ちの恋



 (あーあ、休んじゃったヨ学校)


 ベッドにごろんと横になり、盛大なため息をつく。別に体調が悪いわけではない(ご覧の通りぴんぴんしてるよ)。欠席理由はごくごく一般的な寝坊。まだ午前中なら救いようがあったかもしれないけれど、昨夜寝た時間が遅かったせいか(夜なかなか寝付けない、悩めるお年頃なのねん)、目が覚めたら時計は既に午後三時をまわっていた。一日の半分以上を寝て過ごしてしまったわけで、さすがの俺もさーっと顔から血の気が引いた。階段をだだだっと駆け下りて「おいちゃん、なんで起こしてくんなかったの!?」って叫んでしまったくらいに。
 おいちゃんってば少しも悪びれないで「ああ、あんまり気持ちよさそうに寝てたからさ、イイ夢でもみてたら悪いな〜って思ったんだよ」なんて言って笑ってたけど、ソレ、思いっきり見当違いですからっ。残念!(イイ夢ってゆーのは、彼女が出てくる夢のことを言うの!)。
 前までの俺なら、ここまで騒がないかもしんない。いや、絶対騒がないな。でも今の俺にとっては大問題だよ。学校は、大好きな彼女(と親友)と一緒に過ごせる大切な場所なんだから。

 済んでしまったことをあれこれ言っても仕方がない。寝坊をした自分が悪いんだ。 またもや大きなため息が出そうになったそのとき、窓の外から下校途中の小学生がはしゃぐ声が聞こえた。
「今頃、野ブタも家に帰ってるんだろうな〜……」
 ぼんやりと蛍光灯を見上げ、呟く。この時間なら野ブタは商店街を歩いている頃かな。神社を抜けて、花屋のおばちゃんと、今日もおしゃべりしてるのかな。
 彼女の家路までの日課を、ひとり頭の中で辿る。ちょっぴり丸まった彼女の背中を思い出すと、無意識に頬が緩んだ。さっきまでの沈んだ気持ちもどこかへ飛んでいっちゃったよ。ヤバイよ俺、もう末期かも。

 日は、大分傾いてきた。「野ブタも家に着いた頃かな〜、今日の晩ご飯は何かな〜♪」俺は軽快に歌いながら階段を降りる。最後の一段に足をかけたとき、目に入ったのは。
「……ってえええっ、の、野ブタ〜!?」
 危うく足を踏み外してしまうところだった。茶の間にちょこんと座っていたのは先ほどまで自分の思考の中にいた人物。
「うそうそマジでー!?え、待って……野ブタ今の時間、家に到着してるでしょ…?」
ソレがどうして俺の目の前にいるの??混乱している俺に、彼女はゆっくりと人差し指を向けてくる。
「あの……今日学校休んだから……」
「お、俺が?」
「……うん……」
「……心配で?」
「う、うん………」
 今日の彼女の生活サイクルの中に、俺のための時間を作ってくれたなんて。

「……マジで?……」
 自問にも似た言葉に、彼女は律儀に首を振り返してくれた。縦に思いっきり。
「…か、身体、大丈夫…?」
「だ、大丈夫だっちゃ……あ、あんがと……」

 もっと気の利いたことが言えたらよかった。
でもあまりに幸せすぎて、俺には言葉が見つからなかったんだ。





ストーカーまがいのことをしていても、彼なら許されそうだから困る(笑)。

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