祭の夜は心が騒ぐ。それは神様も同じであって。
たまには里に下りてきて、人間達に混じって楽しい夜を過ごすものだ。
陶酔境
さまざまな店が立ち並び、いろいろな物を売っている。
そして 見渡す限りの人、ヒト、ひと〜〜〜!!
こんな状況では 連れとはぐれたり、待ち人と会えなかったりする者も多かれ少なかれいるらしく。
「むーちゃ〜ん、、どこ行っちゃったんだよぉ〜〜」
「も〜、かんちゃんも春華ちゃんも ここで待っててっていったのにぃ〜!」
ここにも二人。互いの対向方向から歩いてくる。
「あ、妖狐。」
「あら、えっと・・・スギノ、様??」
そして、目が合った。
「そっか スギノ様、むーちゃんとはぐれちゃったんだ。人、多いもんね〜。私と似たようなものだわ。」
「え、お前も鬼喰いたちとはぐれたのか??」
偶然出会ったスギノとヨーコは 夜店が立ち並ぶ大通りを避け、
小道を歩きながら それぞれのいきさつを話し合っていた。
「だってね、かんちゃんも春華ちゃんもヒドイの。
せっかくのお祭だってゆーのに、食べ物のある屋台でしか立ち止まらないのよ!!」
そう言って、頬をふくらませるヨーコ。
夜店を見て回らないことが 彼女はとても不服だったらしく、待ち合わせ場所を決め 彼等と一時別行動をしたのだが、約束の時間になっても待ち人達は来なかったらしい。
「・・・きっと、また私だけ仲間はずれなんだ・・・。」
しゅん、と俯いてしまったヨーコは、悲しそうに瞳を潤ませた。
それを見て、スギノは頭をかく。
「いやっ・・・たぶん 仲間はずれとかそーゆーんじゃなくてさ・・・捜してるよ、お前のコト。」
「・・・そーかな・・・??」
「そーそー。俺も一緒に捜してやるから。・・・こうは思いたくないケド、なんかむーちゃんもアイツらと一緒にいるような気もするしな。」
・・・・・・コレがヨーコに対する 彼の精一杯の慰め文句だった。
わたあめやらきんぎょすくいやらの店が立ち並ぶ道を、
淡い薄明かりの下、人ごみを掻き分けながら 無言で二人は進む。
ヨーコが落ち込んでいるみたいだったから。こういうときは何も言わないのが一番だと思ったから。
「ね、みてみて!」
ぐいぐいと上着のすそを引かれ、何事かとスギノが振り向くと・・・・・・
そこは 小さな屋台。
女子供が喜びそうな、ガラス細工の小物などがたくさん並べられている店だった。
風鈴やら、かんざしやら・・・
堤燈の灯りに照らされて光るそれらを見て、ヨーコは 目を輝かせている。
怒ってたかと思ったら・・・
さっきまで 泣きそうな顔してたくせに、もう笑ってやんの。
呆れる反面、なんだかおかしくて。
スギノは ふっと微笑んだ。
その くるくる くるくる 変わる表情は、なにかに似ていた。
「コレ、かわいい〜〜v」
そう、ソレは見ていると 不思議な世界に引き込まれていきそうなくらいに・・・・・・・・・
「・・・なんか、鬼喰いたちの気持ち、わかるなーー・・・・・・」
「あ、なに?あなたも食べ物の屋台しか覗かない派??
見るだけならタダなんだし、いいじゃない!」
スギノが無意識で呟いた小さな言葉を、ヨーコは聞き逃さなかったらしい。
きっ、と 拗ねたような鋭い眼差しを向けてくる。
幼い彼女の顔では、逆に可愛く見えてしまうのだが。
「いや、派とか・・・・・・そうじゃなくて・・・・・・」
・・・・・・・・・・・目が・・・・・・・・・・・・・
「ハイっ、コレ覗いてみて!絶対びっくりするから!!」
ずいっとスギノの目の前に突き出されたソレは 万華鏡。
筒の部分に はでな装飾が施されてはいるが、中身は普通のものと なんら変わりなさそうだ。
光の具合と鏡の反射で 中の色紙の模様が変わるだけだろ。
こんなモノ、子供しか喜ばない玩具だとスギノは思う。
・・・・・・・・いや、思っていた。
しつこくヨーコに推され、仕方なくスギノは万華鏡を覗く。
くるくる、くるくる
赤や黄の光が、
きらきら、きらきら
忘れられないくらいに ひとつひとつが鮮明で。
目が、離せない。
・・・・・・・・・・・まるで、同じだ。
スギノは何も言わず、ヨーコに万華鏡を手渡した。
「ね、すごいでしょ!」
得意げな顔のヨーコは 万華鏡を受け取ると、そのまま店先へ手を伸ばした。
家計のことを考えると、余計なものは買えないのだろう。
少々名残惜しそうに、もとあった場所へ並べようとした そのとき。
「なあ、ソレ、買ってやる。」
「・・・えっ??」
突然の申し出に、ヨーコは驚いたような声を出す。
スギノ自身も驚いていた。女にモノを買ってやるなんて。
でも、
万華鏡は、自分自身を 覗けないから。
自分の魅力に きっと ずっと、気づかない。
店の主人に包んでもらったそれを、スギノは黙ってヨーコに渡した。
ヨーコは貰った包みを大事そうに懐に抱く。
「・・・ありがと、スギノさま・・・」
照れたような、でも、とても嬉しそうな顔。
見ていると、なにか まじないをかけられたかのように。
「・・・んじゃ、鬼喰いたちを捜すか〜!」
スギノは染まった顔を隠すかのように大きな声を出すと、ぽんっとヨーコの背中を軽く押した。
「うん、そーよね!がんばろ〜!」
そのまま小走りにかけて行く彼女。
その 後姿を、
くるくる、くるくる。
両手で筒を作って、覗いてみた。
きらきら、きらきら。
「スギノさまぁ〜〜はやく〜ぅ!!」
それは、甘い陶酔。
人間は よく自分に、「時間を止めてほしい」と 出来るわけがないコトを願う。
でも、今、その気持ちが なんとなく解った気がした。
100HIT踏み踏みありがとうございました、多田野さま!
