例えばの話。




「つららぁ〜、ちょっと休まない〜?」
「ちょっとって……今始めたばっかりじゃない。」
教科書の散乱した机に突っ伏し、ゆかりが情けない声を出す。
そんな彼女を見て、氷柱ははぁっとため息をついた。
テスト期間になると、学生達は悠長な生活をしていられなくなる。更にその合間に片づけなければいけない様々な課題。
教授達も鬼だわ、そう呟くゆかりを見て、氷柱はくすりと笑う。

「まあまあ、ここを乗り切ればまた平穏な日々が戻ってくるじゃない。」
「そんなこと言ってもさあ…例えばここにあるレポートの山が一気になくなったら、こんな苦労しなくてもいいのになあ〜なんて思わない?」
「そりゃあ思うけど……」
「学校にヤギが襲撃して、テスト用紙を全部食べちゃったから試験なし、とかさ。」
「ふふ、面白いコト言うね、ゆかりってば」

彼女の発想力には独特のものがある。そんなところも氷柱は好きだった。
「ヤギ襲来もいいけど…そうだねえ、例えば……突風が吹いてテスト用紙もレポートも全部吹き飛ばされちゃうとか、どう?」
「おおっ、氷柱やるじゃん〜。私も負けないっ…大地震が来て、学校だけつぶれちゃうとか〜…」
「ゆかり〜、それはいくら何でもやりすぎだよ〜」

図書室に二人の笑い声がこだまする。途端に他の生徒達の視線が集まった。素早く口元を抑えた彼女達は、慌てて作業を再開する。
「あーあ、現実にありえないこと言っても仕方ないよねぇ……」
「あはは、でも楽しい気持ちになれたからいいじゃない。」
面白くなさそうに呟く友人を見て、氷柱はくすくすと笑いをもらす。


例えば、ここにある課題が綺麗さっぱりなくなったら。
例えば、明日の試験が中止になったら。

……例えば、アイツが詐欺師じゃなかったら。


ふと脳裏に浮かんだ考えを打ち消すように、氷柱はぶんぶんと頭を振った。
「……そんなの、ありえないのに……」

先ほどまでの楽しい気持ちは一気に吹き飛び、心の中にもやもやと雲がかかっていく。
ああ、こんなこと考えなければよかった。





フォルダを漁っていたら発見。
テスト前の「もしも」
誰しも学生時代に考えることだと思うのですが…私の周りだけ?(笑)

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