太陽の下、キミの笑顔が眩しくて。
熱に 浮かされていたんだ。
太陽のまほう
―――頭が、イタイ…………。
「うーん………。」
今だぼーっとしている目をこすり、ボクは重いまぶたを開いた。
薄い視界の中、まだ頭がはっきりしない。
ぼんやりとした風景が、やがて形を成していく。
青い海、白い砂浜。
……あれ、どうしてボクはこんなところで寝てたんだ?
「大丈夫、ロキくん…?」
「え、まゆら………?」
まゆらのひざの上、ボクの金色の髪からは小さな水滴が滴っていた。
心配そうにボクを覗き込んでくる、彼女の大きな瞳。
そうか、ボクは…―――。
「もう、ロキくんったら…どーして泳げないならそう言ってくれなかったの?」
「どーしてって………。」
言えるワケないじゃないか、キミの前で。
ボクがだまったままでいると、まゆらはふうっと溜息をついた。
「でも、鳴神くんが監視員さんでよかったよー。私独りじゃ助けられなかったもん!」
そう言うと、にこっと笑顔を向けてくるまゆら。
溜息は安堵の表れだったらしい。
でもボクは、
「……ナルカミくんが……。」
釈然としなかった。
「そうだロキくん、気分悪くナイ?私、何か冷たいもの買ってくるね!」
言うなり、彼女は駆け出していく。
白いワンピースの水着が人ごみの中に消えていくのを見ながら、ボクは身体を起こし、深い溜息をついた。
容姿端麗。
自慢じゃないが、街を行く乙女達はみんなボクの方を振り返っていく。
なまじ こんな姿だから、欠点のひとつやふたつなんか気にしていなかった。
……とゆーより、気にならなかったんだ。
泳ぎなんて、海や川を渡るくらいしか必要なかったし。
そのための別の手段を、ボクは持ち合わせていたから。
でも、コレだけは盲点だったよ。
「……カッコ悪いとこ、見せちゃったな……。」
「なーにがカッコ悪いって?ロキ!」
ひとり考え込んでいたボクの横で、能天気な声がした。
声の持ち主は Tシャツに短パン、手には双眼鏡を持っており、首からは笛を提げている。
「なんだ…ナルカミくんかぁ…。」
「なんだとはなんだ!命の恩人に向かってよっ!!」
「ハイハイ、わかってるって……。」
こんな男に助けられたのかと思うと、悲しくなってくる。(ヒデェ。)
仕事はいいのか、彼は熱い砂浜にどっしと座り込んだ。
「…にしても、泳げないくせに海に飛び込むなんてな〜。ロキ、お前にしては愚かじゃないか?」
「うるさいな……やむを得ない事情があったんだよ……。」
満面の笑みを浮かべ、波間へと手を引く無邪気な彼女を、
キミは 断りきれるかい?
「……ま、ナルカミくんには関係のナイ話だケドね。」
「は?なんだソレ。」
「ボクとまゆらの事情ってコト。」
誤魔化すようにボクがこう言うと、ナルカミくんは少し渋い顔をした。
「…結局はノロケか…。そーいやさっき、大堂寺が海に向かって歩いてたケド、お前 アイツ独りにしてていいのかよ?」
海に、向かって……?
「え…なんか冷たいものを買ってきてくれるって言ってたんだケド…。」
「んじゃー寄り道だ。今日は何十年に一度って言われる、ビッグウエーブが来る日だし。ソレを見に行ったのかもしんねーな。」
「ビッグウエーブ?」
「サーファー達にとっては憧れの 超でかい波だって話だぜ。」
ナルカミくんの言葉に、ふと海を眺めた。
すると遠くから、津波のようなものが押し寄せてくるのが見えて。
「……ナルカミくん、もしかしてアレ……」
「おお、そーそー。アレだよアレ。」
呑気なナルカミくんとは対照的に、波は容赦なくこちらに向かって押し寄せてくる。
「ちょっ…逃げないとヤバいんじゃ……。」
このただ事ではない事態に、他の客達もざわめき始めた。
パラソル、シートをたたみ、次々に高台へと非難していく人々の中に、ボクはまゆらを捜した。
……居ない……?
「まゆらーーー!!」
大声で叫んでみるが、返事が帰ってくるワケもなく。
『さっき、海に向かって歩いてた―――』
ボクの脳裏に、ナルカミくんの言葉が浮かんできて。
くるりと踵を返すと、ボクは海の方へと足を向けた。
「おいロキ、どこ行くんだよ!お前、泳げないんだろ!?」
背後から慌てたような声がしたが、ボクは躊躇わず、波へ向かって走った。
◇
ざぶざぶと水を掻き分けて走るボクの頬を、細かい飛沫が濡らす。
水の中は動きにくいが、まだ足の届く深さで。
「…まゆら…どこに居るんだよ…?」
ここにいる確証なんて、なかった。
でも。
「…やっと、見つけた……。」
腰の辺りまで水につかるくらいの位置。
そこに彼女はいた。
おおかた、この大きな波に見とれて逃げ遅れたのだろう。
ボクの姿を捉えると、ほっとしたように笑みをこぼした。
ボクはまゆらの手を取ると、岸に向かって走り出す。
先ほどよりも、確かに海は満ちていた。
それに加えて高く、大きな波。
こんな状況じゃ、泳げるも泳げないも関係ない。
腕を振ると ばしゃばしゃと水がかかったが、そんなことに構っていられるものか。
もう、波はすぐそこで。
ただボクは キミを守りたいだけなのに………。
足が、もつれた。
「…あれ……。」
「あ、ロキくん気がついた〜!」
まゆらに上から覗き込まれる格好で横たわっていたボクは、がばっと身体を起こした。
どこかで見たコトのある場面。
ああ、ボクはまた………。
「あのね、あの後 波が一気に私達を岸まで打ち上げてくれて助かったの。……ごめんね、勝手な行動しちゃって……。」
すまなそうに謝る彼女だったが、ボクには合わせる顔がなかった。
一度ならず二度までも、キミの前で溺れてしまうなんて。
「謝らなくていいよ、まゆら。ボクの方こそ、きちんと守れなくてごめん……。」
ボクの言葉に、まゆらはふるふると首を振った。
「ううん、助けに来てくれてありがとう、ロキくん!……嬉しかった……。」
頬を染めている彼女が、
とても とても 愛しくて。
「次までには泳げるようにならないとね。どんなコトからも まゆらを守れるような男になるためにさ。」
「……うんっ!」
笑顔と共に、ふんわりと温かな手がボクの腕に絡まる。
照りつける太陽と、キミの温度。
夏は まだ、始まったばかり。
詩音さまのリクエストで、覚醒ロキまゆ小説でしたー
ヘタレもいいとこですね、ロキ様(笑)
どうもありがとうございました!
