たいせつ
「ねェ、鳴神くん、なにかいいバイト ナイかなぁ?」
昼休み、内職をしていた俺を覗き込んでくる、大きな瞳。
その瞳の持ち主は、大堂寺 まゆら。
「はァ〜?ぶしつけになんだよ!?」
急接近してきた彼女の顔に内心ドキドキしながら、動かしていた手の速度を速める。
俺は忙しいんだ、というのを精一杯アピールしたつもりだった。
しかし 大堂寺はというと、そんなことには全く気づかない。
「父の日のプレゼント!おこづかいじゃなくて、自分で働いたお金で買ってあげたいんだケド、
パパにヘンなコトしてるんじゃないかって疑われたら困るから・・・鳴神くんならバイト慣れしてそうだし。」
人懐っこい笑みを浮かべ 俺の方を見てくる。
そんな顔をされると、嫌とは言えない。
これは神の性なのか、それとも男の性なのか。
動かしていた手をしばし休め、腕組みをして考えてみる。
「ん〜と・・・そうだなぁ・・・無難なトコで、ファミレスのウエイトレスとか・・・どーだ?」
「なるほど〜いいわねぇ〜」
近くて、時間給もそこそこいいファミレス。
以前俺は誤って客に木刀をぶつけちまってクビになったケド、大堂寺ならうまくやれそーだし。
・・・・・・なにより、ウエイトレスの制服が似合いそうだし・・・・・・。
俺の頭の中で、ウエイトレス姿の大堂寺がくるっとターンする。
すると 風の動きにあわせて、ひらりと舞うスカート。
・・・・・・・・・ん?あそこの制服、スカートの裾が短すぎなかったか!?
もし、女に飢えた男どもが飯を食いにでも来たら・・・・・・
「だっ・・・ダメだっ!ファミレスはダメ!!」
「えー・・・どぉしてぇ??」
俺が腕で大きく×印を作ると、大堂寺は不服そうに口をとがらせた。
理由!?・・・・・・言えるワケねーだろ。
「ろ、ロキに怒られそうだから!!」
苦し紛れで口にした弁解に、当然だが 大堂寺は首を傾げている。
誤魔化すためにも、話題転換を図る俺。
「やっぱなー、裏方の仕事がイイぜ!皿洗いとか!」
前に働いたコトのある料亭に、皿洗いバイト募集のチラシが貼ってあったのを思い出す。
俺はとゆーと、はりきって力を入れすぎ 数枚の皿を粉々にしてしまって やはりクビになったのだが。
大堂寺ならそんなことはないだろうし。家事は得意だし。
・・・・・・でも、あれ?なんかあそこの料理長って、スケベっちい目をしてたよーな・・・
そういえば、バイトで入ってきた女達はみんなすぐ辞めていったし・・・・・・・・・
・・・・・・・・・ま さ か ・・・・・・・??
「だっ・・・ダメだー!!やっぱダメ!!」
またもや、自分勝手な想像が膨らんでいく。
それに耐え切れないで 思わず叫んでしまった俺を、大堂寺は呆気にとられたかのように見つめている。
俺は髪をかきむしり、
「あー・・・やっぱさー、大堂寺にバイトは危険すぎるぜ。何が起こるか分かんねーし・・・。」
「えー!?ソレって、私が失敗ばかりするかもってコト??」
何かを勘違いしている大堂寺は、失礼な!と頬を膨らませた。
しかし、本気で怒ったワケではなかったらしい。
冗談だよーvと悪戯っぽい笑みを浮かべると、ぺろりと舌を出す彼女。
俺は ほっと胸を撫で下ろす。
すっと俺の机の前にしゃがみこみ、頬杖をつく大堂寺。
「ね、鳴神くんは 今どこでバイトしてるの?」
「ん、俺は駅前のパン屋。残りモンがもらえるし、けっこー楽しいんだ。」
「・・・そっかー・・・・・・ソコで私も働かせてもらえないかなぁ・・・?」
「えっ!?」
思いがけない大堂寺の言葉に、目を丸くしてしまう俺。
「そーすれば、鳴神くんにいろいろ教えてもらえるし・・・って、やっぱり調子良すぎかな?」
えへへ、と苦笑いをする大堂寺を見て、俺はぶんぶん首を振った。
「そんなコトねーよ!よしっ、俺が頼んでおいてやる!!」
思わず、二つ返事で承諾しちまった。
調子良すぎなのは 俺の方。
「やったーvありがとう 鳴神くん!」
俺の考えなんか つゆしらず。
大堂寺は笑って手なんか振ってるし。
仕事の失敗はともかく、俺には 危なっかしい彼女を見守っておく必要があるようだ。
刹那さまのリク、ナルまゆ文でした。
どうもありがとうございました!
