空からこぼれる雪を 祈るように数えよう
一緒に
Silver bells.
雨の音は好きだった。
ぱらぱらと窓ガラスを弾く軽い音が、心地よく身体の中に染みこんで来る。
「…でも、何も今日が雨じゃなくてもいいと思うんだけどな…」
まゆらはひとりごち、ふうっとため息をついた。
吐いた息で、ほわっとガラスが曇る。
その部分をごしごし擦ると、浮かない表情をした少女の顔が映った。
ああ、空も真っ暗。
好きな人と過ごすホワイトクリスマス、憧れてたのになぁ〜……。
ぼんやりと頭に浮かぶ、彼の顔。
コンコン、と窓を叩く音で、まゆらは はっと我に返る。
見ると、ガラスの向こうににっこりと優しい笑みを浮かべた青年が立っていた。
「ロキくん!?こんな天気の日にどーしたの?」
窓を開くと、ふわっと彼の金色の髪がまゆらの頬にかかった。
「まゆら、一緒にツリーを見に行こう。」
まゆらは歩きながら、濡れた路面に反射する街灯の光をぼーっと眺めていた。
彼から家に来るのは珍しい。
普段は、専ら 自分の方から行かないと逢えないのに。
そっと、右を歩く彼を見上げる。
よほど変な顔をしていたのだろう。目が合うと、ロキはふうっと息をついた。
「…今日、クリスマスイブだろ……?闇野くんが駅前のツリーが見事だったってゆーから…」
駅前の大きなクリスマス・ツリー。
クリスマスイブにそのツリーを一緒に見たカップルは幸せになれるという伝説があると、以前にクラスメイトが話しているのを聞いたことがある。
「駅前の…あっ……毎年、夏穂とも見に行きたいよね〜って話してたんだ!」
「え、まゆらは長くこの町に住んでるんだろ?見たコトないわけ?」
「えっと…イブじゃナイ日には……。」
これまでに、恋人と呼べるような関係になった人なんて居なかったし。
伝説を信じてるなんて幼稚だと、ロキくんは思うかな……?
それきり無言なってしまったふたり。
どうしたのだろうと まゆらはまたロキの顔を見上げる。
かすかに、頬が紅いような、気がした。
「どうしたの、ロキくん?なんか顔紅い……」
「いや、なんでもナイよ。」
◇
細かな雨粒が傘の表面に当たり、小さな音を作り出している。
駅前のツリーに少なからず曰くがあることは、ロキにも予想がついていた。
神頼みと同じくらいに確証のない、ありふれた言い伝え。
バカみたいだと思う反面、今は自分も、それに肖りたいと思っている。
運命は 自分で決めると
かたくなに 思っていたけれど。
今、何かに頼りたいと思う理由が解った。
それは、守りたい 誰かができたから。
言葉にするのは、照れくさいものだ。
知らぬうちに顔に出ていたらしい。
「どうしたの?」というまゆらの声に、ロキは慌ててなんでもないと返した。
賑やかな駅前の広場に、大きなツリー。
雨のために暗いものの まだ時間が早いためか、ツリーの周りに集まっている人の数は少ない。
ロキとまゆらは広場の真ん中に立った。
華やかなイルミネーションが辺りを明るく照らしている。
「綺麗だね〜こんなの見たの、初めて……」
「そうだね………」
きらきらと輝く雨粒が、ツリーに降り注ぐ。
ソレはとても幻想的で。
「あのね、ロキくん、ありがとう……今日は誘いに来てくれて。」
ツリーから視線を外し、くるっとロキの方に向き直ったまゆらは ぺこりと頭を下げた。
淡い光の中の彼女の笑顔を見ていると、
不意に、愛しさがあふれて。
ロキは彼女の凍えた指に触れると、そっと 口付けた。
驚いたそぶりを見せたまゆらだったが、ロキの腕の中、小さく俯く。
「私ね、どうしてもロキくんと一緒に見たかったの……」
小さく漏らした、まゆらの言葉に。
ロキはぎゅっと、腕に力を込めた。
乙女チックなジンクス。
たとえ非科学的なコトでも、信じるコトを間違っているとは言えない。
懸命に信じている彼女を、ボクはもう笑えない。
逆に、嬉しくなってしまうんだ。
一緒に幸せになることを願っていてくれるんだ、と。
感じることが、できるから。
「…ボクも、まゆらと見たかったんだよ。」
『まゆらとだけ。』
耳元でそっと囁いた言葉が、自分でもくすぐったかった。
「……ジンクス、知ってたんだ?」
ロキを見上げる彼女の大きな瞳。ロキはふっと微笑み、首を横に振った。
「ううん。でも、ここで誓おうと思ったんだよ、キミに。」
押さえきれないこの感情と。
サンタクロースよりも大きな愛情を。
――――ひとつだけ。
降っていた雨が、やがて雪へと変わる。
頬に当たる冷たい風を感じながら。
「ずっと守るよ……―――」
抱きしめて
雪だって解けるほど
伝えたい 心のまま 止めどない想いを。
堀江ひろこさまのりクエスト、シリアス覚醒ロキまゆクリスマス小説でしたー。
シリアスというより、意味もなく甘い……
どうもありがとうございました!
