ケーキを甘くするにはお砂糖をいっぱい入れて。
アイスティを甘くするにはシロップをいっぱい入れて。

それじゃあこの二人は?

・・・・・・・・・・・・どうすれば、甘くなる??




センチメンタル



昼時、学校の屋上は昼食を食べる絶好のポイントとなる。
例に漏れず、今日も一組のカップルが日あたり良好、ぽかぽかな位置を陣取っていた。


いや、彼等自身はカップルだなんて思っていないかもしれない。




「あー食った食った♪」
「こら、光太郎!ちゃんとゴミは拾わなきゃ!!」


一息つく俺の傍らで、一人のクラスメイト―――ホタルが怖い顔をしている。

「・・・・・・・・。」

俺が無言で落としたパンの袋を拾うと、ホタルは「よろしい!」といわんばかりににっこり笑った。

……まったく、母親かなんかのつもりかよ……。


「そーだ光太郎!私、クッキー焼いてきたの。よかったら食べてv」
「ああ、もらおうかな…。」


俺は丸まっちいシンプルな形のクッキーを手に取る。
ほんのりとバニラの香りがした。


ホント、女って菓子作んのすきだよな・・・・・。


口に放り込むと、さくっといい音がした。
でも、甘い香りに反してソレは・・・・・・・・・・


コイツの作るのっていつもこうなんだよな。


・・・・・・・甘さひかえめ。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私の作ったバニラクッキー。
そのひとつを口に入れた光太郎は、何か思案するような微妙な顔をしていた。

どうしたのかな、おいしくなかったかな…。
…不安になる。


古典的だけど、もしかしてお塩とお砂糖を間違ってたとか!!

私の思考がぐるぐるうず巻いていたとき、光太郎が口を開いた。


「コレさ、ちょっと甘さひかえてんの?」

予想外の問いに、私は唖然とする。


……ソレって、甘さが足りない、ってコト??





私、光太郎は甘いものスキじゃないのかなって思ってた。
だって光太郎は人とベタベタするのは好きじゃないし。
女の子もしょっちゅう替えてるし。
さっぱりしたとこあるし。


そんなので味の好みまで決めるなって言われるかもしれないケド、
だって人の性格と味覚はよく似ている、って聞かない??



「あ、うん、ちょっとね…光太郎向けにお砂糖の量を減らしてみたの。…おいしくなかったかなぁ?」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「俺、向け??」




アイツの作った甘さひかえめクッキー。
ソレは『俺向け』だったらしい。

理由を聞いて呆れちまった。
バッカじゃねーの!?って思わず叫んだくらいだ。

「俺、甘いモン嫌いじゃねーんだケド。」


途端、ホタルは俺に平謝り。
挙句、「光太郎ってクールなんだもん〜」だってさ。


なんつー勝手な解釈だよ。

はぁ〜〜…ため息をつく。



「…俺さぁ…」



『少なくとも、お前には甘かったつもりだったんだケド。』




ホタルの顔、思いっきり覗き込んで言ってやった。
……アイツ、口をぱくぱくさせてやんの。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


光太郎ってば、ソレは不意打ちだよ。





……反則だよ。



光太郎のいきなりの発言に、私は頭の中が真っ白になって。
予鈴が鳴ったのにも気付かなくて。



「教室まで競争な〜♪」



にかっと笑って走り出す光太郎を、ただただ、ぼーぜんと見ていることしかできなくて。



―――彼の去り際、私の鼻をくすぐったのは、クッキーと同じ、バニラの甘い香り…




「…っえ!?待ってよ光太郎!!」



ちょっぴり甘い彼を、私はあわてて追いかけた。





少女マンガモード炸裂ですね……

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