自分からやっかい事に首を突っ込んで、
夢中のあまり、自らの身も顧みない。


理解不能。


知れば知るほど 解らない



ルビーのなみだ



・・・・・・いつからだっけな・・・・・・。



ある日、ロキは夕飯を集りに来ていた鳴神に尋ねた。

「最近まゆら、どーしてる?」
「あ〜?どーって・・・フツーだけど??」



普通??



「・・・ソレなら、なんでウチに来ないんだろう・・・。」
「・・・なんでって・・・そりゃ〜おめ〜・・・」

鳴神は口をもごもごと動かしながら、辺りを見回す。
そして 一言。

「来づらいんだろ。」
「・・・・・・は?」



燕雀探偵社では、闇野とスピカが仲良く家事をしていて フェンリルはソファの上でのんびりとお昼寝中だ。
今ではもう、これはすっかりお決まりの風景になっていて。



「家族水入らずな場所にさ、部外者は入って来にくいんじゃねーの?」

ぐうぐうといびきをかいているフェンリルをちらりと横目で見、鳴神はぐいっとお茶を飲んだ。

「でも・・・まゆらはボクたちが家族だって知らないよ・・・?」
「・・・まあ、知らなくても感覚的に解っちまったんだろーな。」

そう言うと、つまようじを銜える鳴神。



・・・まさか・・・





あのまゆらにそんな感覚があったなんて信じられない。
いつでも能天気で、明るくて、人が踏み込んで欲しくないところにも いつの間にか入りこんで来るような性格じゃないか。





「・・・ところで、部外者であるキミには遠慮というモノはないのかい?」
「わりーな、俺には生活が懸かってるもんで。」

彼のあっさりとした言葉を聞いて、ロキは大きく溜息をついた。




表情豊かで なんでも顔に出るのに。

ときどき、誰よりも『解らなく』なってしまうのはどうしてだろう。

もっともっと知りたいと、思ってしまうのはなぜだろう。




『来づらい』なら、こっちから『逢いに行く』しかナイのかもしれない。







下校時刻を知らせるチャイムが響く。
ロキはひとり、校門前で この音を聞いていた。
そんな彼の横を、幾人かの学生が通り過ぎていく。



独りで考えても、全ては憶測。
ちゃんと、本人に聞いてみないことには解決しない。
そんな事務的な理由を付けて納得してみたが、



・・・・・・・・・・・・・・・・・本当は



「まゆら!!」

遠目に見えた、少女。

あまりに久しぶりすぎて、思わず大声で彼女の名前を叫んでいた。

呼ばれた少女の方も目をぱちくりさせている。

「・・・ロキくん!?なんでココに・・・・・・」

慌ててロキに駆け寄ってくるまゆら。
風の気配を感じて、ロキは俯き、前髪をいじった。



「・・・・・・なんでって・・・・・・」







 ただ、純粋に。







「・・・まゆらに逢いたいなって、思ったからさ・・・・・・」


『逢いたい』


「・・・それで・・・わざわざ・・・??」


まゆらの声は微かに震えていた。
だが、それ以上は なにも言ってくれなくて。



ただ、沈黙が流れた。







この言葉は、間違いだった?見当違いだった??







「まゆ・・・・・・」

ロキは沈黙に耐え切れず、顔を上げた。

すると、ひとつぶ。




・・・・・・・・・・・・雨が 降ってきたかと・・・・・・・・・。




「・・・・・・・・・・・・・・・!?」

気づいたときには 言葉も無かった。


まゆらの大きな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれていたのだから。





それは見間違いでもなんでもなく。





「・・・だってっ・・・嬉しかったんだもん〜〜〜・・・」


まゆらはやっとこれだけ言うと、腰が抜けたかのようにぺたりと座り込み、ごしごしと目をこする。

それでも、涙はこぼれて、こぼれて・・・・・・・・・






・・・・・・こんな顔させるつもり、なかったのにな。






ロキは黙ってしゃがみ込み、未だ止まることのない彼女の涙を拭った。



「・・・・・・泣くくらいなら、どうしてウチに来なかったのさ?」
「・・・だってっ・・・私、あそこに居ちゃいけないのかもって・・・・・・」
「そんなワケないじゃん・・・」

取り留めの無い彼女の言い訳。







理解不能だと、そう 思っていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも。




「・・・まゆらも女の子なんだね〜・・・」
「・・・ソレって、どーゆー意味??」

涙のいっぱい溜まった瞳で睨むようにロキを見上げるまゆら。
そんな彼女を見て、ロキは小さく笑った。


「いや・・・ソレよりまゆら、いつまで道の真ん中に座ってるつもり?」
「だってっ・・・涙で前が見えないんだもん〜〜!」



ロキは静かに立ち上がり、座り込んだままのまゆらの手を取った。
そして彼女を起こすと、そのまま手を引いて歩き出す。





「え〜ん・・・止まらないよぉ〜〜・・・」

「・・・おわびに、ケーキでもおごるよ。」





ぐしぐしと泣き続ける彼女に、

たった今思いついた デートの口実を、悪戯っぽく囁いた。





ぬえさまのリクエスト、「まゆらさんを泣かせるロキさま小説」でした。
ありがとうございました!

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