乙女の祈り


ソレは、ある晴れた日の午後のお話。


今日は楽しくピクニック♪というわけで、公園へ来たロキさまといつものご一行。
空は真っ青、ぽかぽか陽気。


 「ココ、レイヤのお気に入りの公園なんですよ〜v」
ほわほわの髪の毛を揺らし、レイヤが嬉しそうに言った。
 「ホントに素敵なところだねぇ、こんなトコあるなんて知らなかったぁ〜。  ねえ、ロキくんっ!」
レイヤの言葉に納得の様子。
しかし、当のロキはあまり乗り気ではないようだ。
はしゃいでいるまゆらを見て、はぁ〜っとため息をついている。
 「ボクは別に…だいたい、無理にボクを連れ出したのはまゆらじゃないか。」
どっちかというと、今日は家にいたい気分だったのにさ、とソッポを向くロキ。
 「そんなコト言わないで!ホラ、お弁当も作ってきたんだから…ね?」
 「なにィ!?俺にも食わせてくれぇ〜!!」
お手製のお弁当を高々と上げてみせるまゆら。そして、ソレに釣られて大声で吼える鳴神。
その声はキーンと耳に響いた。
ロキは耳を塞ぎながらまゆらに言った。
 「ナルカミくんうるサイ…まゆら、お弁当食べてさっさと帰ろうよ……」
 「そ、そうだね。もうお昼だもん、お腹へったよね!」



………鳴神の場合は、いつもなのだが………



まゆらがお弁当の準備をしている傍らで、レイヤは悲しそうな表情でロキを見ていた。
 「……ロキ様、この公園嫌いですか……楽しくナイですか…?」
 「い、いや、そういうワケじゃないけど……」
 (ただ、この頃いろんなコトがありすぎて疲れてるのかもな…)
大神オーディンのこと、ヘイムダルのこと、フレイのこと、ノルンたちの不可思議な予言、
確かに、最近のロキの周りは騒がしかった。
 (フレイヤの覚醒のコトも悩みの種なんだケド……)
とりあえず、何も知らないレイヤには罪はない。
 「気にしなくていいよ、レイヤ。この公園はとても素敵だから……」
ロキの一言で、レイヤの顔がぱあっと明るくなる。
 「…ハイ、ロキ様……!」
 「お〜い、ロキ、レイヤ、弁当食おうぜ〜!」
準備が終わったらしい。
鳴神に呼ばれ、皆で弁当をいただく。
ロキの予定では、弁当を食べたら帰宅するはずだった。



しかし…………





 「ぐお〜ぐお〜〜〜」
 「す〜す〜……」
まゆらのお弁当をお腹いっぱい食べた鳴神はシートの上に寝転がり 満足そうにいびきをかいていて、その横では、レイヤが幸せそうに眠っている。
まゆらはどこかへ行ってしまった。
そして、残されたロキは ただぼ〜っと立ち尽くすのみ。
 「……なんなんだよ、一体……」
行きたくもないピクニックに付き合わされて、挙句の果てにはほったらかしである。
 (…今日は最低だな……)
空を見上げてみる。
憎らしいほど青く澄んでいて、雲ひとつない。
…ひとりで先に帰っちゃおうかな…。などと思い始めた、そのときだった。
 「ロキくんっ!」
振り向くと、後ろにまゆらが立っていた。
いつものように、能天気に笑っている。
 「……なんなの、まゆら。」
 「あのね、あっちにすごいトコ見つけたの!来てきて〜!」
そういうと、ロキの手をつかんでずるずると引っ張っていく。
 「ちょ……まゆら!?」
まったく強引だ。
抵抗するのも無駄だと思い、諦めておとなしくついていったロキが見たものは………。



 「すごいのって、コレ?」
 「そうだよ、キレイでしょ〜!」




ロキの視界に入ってきたもの。
それは、一面のしろつめ草の群れだった。
まゆらはその中にしゃがみこみ、花を摘み始める。
不意に、ロキから笑いがこぼれる。それを見たまゆらは、不思議そうな顔をして花を摘む手を止めた。
 「なにかおかしかった?ロキくん??」
 「…いや、まゆらがすごいトコってゆーからさ、てっきり殺人現場かなにかかなって……」
そう言ったロキは、また笑い始めた。
 「ロキくんひっど〜い!……でも、殺人現場もミステリーでいいなぁ〜……」
まゆらは腕組みをして、笑っているロキを見た。
目が合う。
どちらともなく、にこっと微笑んだ。
 「まゆらっていつも幸せそうでいいや〜」
 「…ソレって褒めてくれてるのかな〜、ロキくん?」
 「まあ、そう思うならソレでもいいよ〜」


風で、白い花がふわふわと揺れている。


 「…でも その言い方って、ロキくんはいつも幸せじゃナイみたい……」
摘んだ花を編みながら、まゆらは言った。
ロキは静かに俯き、目先で揺れる花を睨む。
 「……そうそう幸せってあるワケじゃないんだよ。特にボクとかにはさ……」
ひゅうっと冷たい風がロキとまゆらの間を吹きぬけた。
その風で、しろつめ草の花も高く、低く舞い上がる。


ぽん、とロキの頭に何か置かれた。
 「…なにこれ、まゆら……?」
 「花かんむりだよ!ねえ、ロキくん知ってる?」
 「なにを?」
 「四つ葉のクローバーを見つけるとね、しあわせになれるの!探してみよーよ!」
子供だましみたいなことである。
しかし、まゆらは本気だ。
 (しょうがないな…今日はまゆらに付き合うかぁ…)
二人でかがんで、しろつめ草のじゅうたんの上を探す。
あれも違う、これも違う……――――
なかなか見つからない。


 「ないよ、まゆら。やっぱり無理だよ。」
 「そんなことないっ!探せばきっとあるよ〜!!」
そう言うと、まゆらは再びしろつめ草を一本一本掻き分けていく。
 (やれやれ……)
ロキも仕方なくそれに付き合う。でも、やっぱり見つからない。
そろそろ諦めよう、と まゆらに声をかけるため、ロキはまゆらの方を見た。
しかし 彼女の姿を見た途端、ロキの動きが止まる。
まゆらが、あまりに必死だったから―――――


ロキは無言で、足元のクローバーを摘み始めた。




どれくらいの時間が経っただろう。
さすがのまゆらも疲れてきた。
 「……やっぱりなかったね、ごめんね、ロキくん……」
後ろにいるはずのロキを振り返ったまゆらの頭に、何かが置かれた。
そっと、自分の頭の上に手を触れてみる。
 「……!ロキくん、コレ……。」
それは、クローバーのかんむりだった。
 「あんまりまゆらが一生懸命だからさ。つくりものの四つ葉だけど我慢しなよね。」
ロキがくれたかんむりの葉は 三つ葉のうちの一枚がきれいに裂かれている。
その外見は、まるで四つ葉のクローバーのようで。
 「…すごいね、ロキくん……幸せを作っちゃったんだぁ〜…」
 「…え?」



つくりものの四つ葉。


つくりもののしあわせ。


しかし、まゆらは素直に感動している。



 「ありがと、ロキくん!」
そう言って、まゆらが視線を落とした先には………
 「…あれ……あれって……」
まゆらはがばっとしゃがむと、足元にはえていた一輪のクローバーを摘み取った。
そして目前まで持ってくると 大きな瞳をよりいっそう見開いて、まじまじと見る。
 「…あったぁ〜!見て見てロキくん、あったよ〜〜!!」
まゆらの手の中にあるのは、まぎれもなく本物の四つ葉のクローバー。
 「よかったね、まゆら。」
あまりにも彼女が嬉しそうなので、自分までその気持ちが移ったようだ。
じゃあ そろそろ戻ろう、と踵を返した、そのとき。
 「はい、ロキくん。」
まゆらは、ロキに四つ葉のクローバーを差し出してきたのだ。
 「?…なんで……」
 「ロキくん 元気なかったから、元気出してもらいたかったの……
 でも、迷惑だったかな…?」
予想外のまゆらの言葉に、ロキは呆然としてしまう。
 (まゆらもまゆらなりに、気を使ってくれたんだな……)
ロキは渡されたクローバーを見つめた。
ただそれだけで、心が満たされたみたいな―――…。



 「ロキくん?」
そんなロキを、まゆらは不思議そうに覗き込んでいる。
 「なーんでもないよ、まゆら。せっかくだからコレ、貰っといてあげるよ〜」
 「なによぉ……私もコレ、貰っといてあげるもんっ!」




まゆらは緑のクローバーの冠を、高々と空に掲げた。
光に当たって、黄金色に染まって見えて。
ロキの顔から自然と笑みがこぼれる。
まゆらも嬉しそうな顔をしている。






 

――――しあわせって、こういうコトなのかもなぁ――――






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