理性を保つにはどうすればいいのか。
……どうか教えてください、かみさま。



男の子の我慢には何が必要か?




 今一番俺に必要なのは、忍耐力じゃないか。
こればかりは養われずに育ってきたなあと思う。
物なんて欲しくもないのにぽんぽん手に入ったし、だから、特別必要だと思えるものなんて何もなかった。
でも今は違う。ひとつ、たったひとつだけ、簡単には手に入らないモノを欲している。
それは、彼女の こ こ ろ。

「……って、そうなのよ、本質はそうなんだケドさあ〜……」
 俺、草野彰の前には小谷信子が鎮座している。
紛れもない、世界で一番大事な女の子。(きゃ〜、言っちゃった〜)
さっきから、彼女の一点にくぎづけだった。我らのプロデューサーが「女には化粧だ!」とかいう提案をしてくれちゃったもんだから。今日はとりあえず口元だけでもということで、ご丁寧にリップなんてもんを塗ってくれちゃったもんだから。
(……修二くんが壊れちゃったのも、解る気がするのよ〜ん)

 野ブタの口元は輝いている。(少なくとも俺にはそう見える)
よからぬことを考えていた狼プロデューサーには早々に立ち去ってもらい、姫は守った、と思ったのだが、まさか今度は自分自身が狼になろうとしているとは。

 好きだってコトは、自分の心の中が相手でいっぱいになっているということ。
 そして、相手の心の中も自分でいっぱいになってほしいということ。

でも、哲学的な部分だけじゃ済ませられないコトもある。ぎゅっと抱きしめたいって思うときもあるし、こう、引き寄せてあのふわふわの髪の毛にキスだってしたい。いやいや、できるなら、俺の目を捉えて放さないさくらんぼのような唇に………
「っ……うわーうわーっ、スケベっ!俺のスケベ〜〜!」
 思わず叫んでしまった俺の隣で、驚いたように目をまんまるに見開いている野ブタ。
あ、ヤバい。今近づいてこないで。俺、何しちゃうかわかんないからっ……。
そんな願いも虚しく、彼女はじいっと俺の顔をのぞき込んできた。
ああ、何だか甘いにおいがする。これは桃の香り……?
そんな香りを漂わせながら男の傍に寄っていったら、本当に何されるか解ったもんじゃないって。
 全力疾走をした後のように、どきんどきんと鼓動を打っている心臓。
ぜいぜいと肩で息をしながら、やっとの思いで口を開く。
「あ、あのさ……野ブタ、明日は俺が特別講師をしてやるっちゃ……」

………女のたしなみってやつをさ。変な虫が寄ってこないような方法をさ。

今日の帰り、参考書を買いに行こう。ゴーヨク堂、あそこになら売っているかもしれない。





がんばれ男の子!という話。(違)

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