ある晴れた日の午後、せっせと庭掃除に勤しむ少女がひとり。
こんな日は、のんびり日向ぼっこでもしたいというのが人の常だと思うのだが、
少女の場合は ちょっと違うらしく。




Open Your Heart



「よ〜っし!今日はいい天気だし、物置の掃除もするぞー!!」

少女――ヨーコはえいや〜っと気合を入れると、物置の敷居を跨いだ。
手にしていた竹箒は、しっかり入り口に立てかけて。


薄暗い中は、入り口が開いていないと何がどこにあるのか分からないくらいだ。
見渡すと、本やら日用品だったと思われるガラクタが山積みにされている。
ヨーコは足元に落ちていた、一冊の本を拾い上げた。

「…片付けるとは言っても、勝手に捨てるとかんちゃん怒るだろうなぁ〜…
 …こんなトコに置いててもどうせ読まないクセに……。」

その本は埃に煤けてタイトルも読めないくらいだが、どこかで見覚えがある。

「……昔、かんちゃんが一生懸命読んでたっけ……。」




小さな彼に似合わない、大きな厚い本。
そんな彼を、いつも近くで見ていた自分。




知らず知らずのうちに、笑みがこぼれてくる。
ここにあるもの全部、それぞれにいろんな思い出が詰まっているのだ。




「……なーんて、感傷的にもなってられないよねっ!
え〜っと…まず いるものといらないものに分けて……」

腕まくりをしてしゃがみ込んだヨーコの後ろで、ぱしん、と軽い音がした。
途端、急に視界が暗くなる。

「……え??」

たった一箇所しかなかった採光口が遮断されたらしい。
慌てて戸を開けようと取っ手に手をかけるが、びくともせず。

「なっ…なんでー??」


ヨーコは深呼吸をし、ゆっくりと思い出してみる。
この戸は引き戸。
外に立てかけた竹箒。


「…もしかして、箒がつっかえ棒になっちゃったとか…?」

どんな理由があるにしろ、閉じ込められてしまったコトは確かだった。




「…こんなトコ、誰も気づいてくれないよね……。」

物置の隅にしゃがみ込んだヨーコは、幾度目かの溜息をついた。
ぐるりと見回してみても、薄暗い空間のみ。



もしも、このまま誰も来てくれなかったら…??



根拠のない考えが、ふっと頭をよぎった。

「……そんなのイヤだよぉ……」






だれか、だれか迎えに来て……





ひとりは イヤ…………





「たすけて…かんちゃん……!」



そのとき カタンと、小さな物音が聞こえた。
ヨーコは思わず、瞳を見開く。

「ヨーコちゃん!?」

近づいてくる足音。

聞きたかった声。


「…っ……かんちゃん!」


ほろり、と涙が頬を伝う感覚。
ヨーコは駆け寄ってきた彼に、強くしがみついた。

「急に居なくなっちゃって、ボクも春華もすっごく捜したんだよ〜……」

勘太郎の言葉に、ヨーコはべそをかきながら こくこくと頷く。





髪をなでてくれる、優しい手が愛しくて。


耳に届いた、何気ない一言が嬉しくて。





「…見つけてくれて、ありがとう……」



きゅっと握られた手に伝わってくる温度。


ソレは、心に潜んでいた不安を、そっと溶かしてくれるモノ。





紫坤ミズキさまのリクエスト、勘ヨー文。
どうもありがとうございました!

キリ番部屋へ