女の子にとって、笑顔は最大の武器。
それが使えないってのは、超不利な状況にあると思うんだよ。
さあどうする、プロデューサー・桐谷修二。




女の子を彩るには何が必要か?





「野ブタ、お前化粧したことある?」
「……ない。」
 やっぱり、思った通りの返答。俺は無意識にため息をつく。
「人の目を引くためには、少なからず必要だと思うわけなんだよ、うん。」
 俺が大きなアクションをつけて説明をすると、彼女はうん、うん、と静かにうなずく。
納得している様子。この素直さが可愛いと思ってしまうのは、ここだけの話。
「…まあ、俺も化粧の仕方とかはわかんねーし…コレはまり子に聞いて次回にするとして。」
 まずはリップからいってみよう?そう言って、俺は買っておいたリップクリームをポケットから出す。
スティックタイプのそれは、今盛んにCMされている果実の香り付きのもの。
「つけたことある?」  と尋ねたら、ふるふると、彼女はかぶりを振った。
「しょーがねーな。野ブタ、上向いてみ?」
 言われるがままに少し顔を上げる彼女。くいっと顎に手を添えて、その唇に………


「………いいかも」
 リップひとつで変身できるんだ、と素直に感心した。
もともと乾燥は気にならなかったが、効果的に潤っている口もとはいつもと少し違って見える。
心なしか漂う甘い香りに、思わず味見をしたくなった…………
「……ってえっ、何考えてんだ、俺っ!」
 オイオイっ、今のって何?野ブタ相手に何をマジに思ってんの!?
ぐるりと野ブタに背を向け、がしがしがしっと髪の毛をかきむしる。
ああ、朝ガードミラーで整えてきた髪型が台無しだ。

 そんなぐちゃぐちゃと自分ツッコミをしていた俺の肩に、ぽん、と手が置かれた。
「随分と慌ててんじゃん……どーしたの、一体何考えてたの、修二く〜ん?」
 ……草野彰。コイツ、いつの間に来たんだか。
それより、いや、どうしたのって……聞きたいのはこっちの方なんですけど。
いつものお前らしからぬ、その今にも相手を射殺しそうな眼差しはなに?

 迫力に負け、後ずさり。
そんな鬼のような形相の彼の後方には、きょとんとした野ブタの顔が見える。


空が青いと、意味もなく思った午後だった。





無意識らぶもいいと思う。

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