『あなたは 何を想って 弾いていたの?』

大きな瞳が 問いかける


それは、恋のうた。




想う心は



放課後、無意識のうちに、ひとりの少女を捜している。
屋上から聞こえてくるヴァイオリンの音色と同時に、自分の行動にも気づいて、月森蓮は苦笑した。
音が途切れる前に彼女のもとに……そんなことを考えながら、階段を上る。
そっと扉を開けると、眩しい日の光と共に、ヴァイオリンを掲げる彼女が視界に飛び込んできた。

甘い、甘い音色。
彼女の音は心地よいが、今日はいつもに増して……

「あれ、月森くん?」

瞳を閉じて、聞き入ってしまっていた。
余韻に浸っていたらしい。声をかけられ、演奏が止まっていたことに気づく。
「すまない、邪魔をしてしまった」
「ううん、そんなことないよ」
その笑顔はまるで、さっきの音色のようだ。ぼんやりと、そんなことを考えていた。


「今の解釈、よかったな」
素直に出てきた言葉に、彼女は「ありがとう」とはにかんだ。
「あっ…ねえねえ、月森くんの音も聴きたい!」
「何を突然……」
「…だって照れちゃったんだもの。そんな顔してそんな言葉をくれるなんてズルイよ。だからお返しっ」
「お返し、って……」

理由はどうであれ、彼女のお願いだ。仕方がないなあ…と甘酸っぱいため息をつきながら、手元のヴァイオリンケースを開いた。楽譜に向き合い、それを構える。
観衆は、目の前で瞳を閉じている彼女ひとりきり。
だけど、どうしてだろう。今までの何よりも、心を込めたいと想う。

それは、願いにも似ていた。


「音楽って不思議だよね。作曲家は、こんな気持ちで作ったのかなって考えながら弾くのは不思議。恋の曲だと、自分も恋をしているみたいな気持ちになるよね」
 演奏の後、胸元で手を組み、瞳を輝かせながら彼女は言った。「ありがとう」という言葉を添えて。
「月森くんの弾く曲はすごい。その曲自体を大切に想っている感じがするよ。月森くんの初恋はきっと音楽なんだね。ちょっと妬いちゃう…」
「ソレは違うな」

えへへ、と笑う彼女の言葉を遮り、短く放った言葉。
自分でも驚くくらいに反響した言葉。当然、彼女は戸惑ったように小首をかしげる。

「え?」
「すまない…俺は、君のことを考えるようになってから、この曲の意味を理解できた気がするから」



この気持ちが何なのか、ずっと探していた。
それをくれた君を、捜してしまうのと同じくらいに。ずっと。



「ところで、君は何に対して妬くんだ?」
「……月森くんって、案外イジワルだったんだね」
「い、意地悪……?」
「冗談だよ。そんな決まってるようなことを聞くから」

困惑する俺の耳元に、彼女は悪戯っぽく笑って唇を寄せた。




それは、とっておきの 恋のうた。





初月日。出来上がってみれば、日月?(笑)。
曲目はお好きに想像してやってくださいませ。(逃げたな)

作品ページへ