臆病なココロ





 屋上。今は、愛しいあのコとふたりきり。
フェンスに寄りかかり、隣で俯く彼女を見ていると、
胸でふるふると揺れる衝動をおさえることができなくて。
うしっと心の中でひとり決心すると、そろ〜っと右手を伸ばす。
「……や、やっぱダメなり〜〜……」
 あとちょっと、という所で、なぜだか勇気がしぼんでしまった。


「……重力って、横から生まれてるんだっけにゃ〜……?」
 はあっとため息をつくと、意味のない独り言を呟く。
俺が野ブタに触れられないのは、地球がいたずらなせいなの?
「……って、そうじゃないだろっ……バカヤロっ!」
俺の右手のバカヤロ〜〜。


腕をめいっぱい伸ばせば、届くハズなのに。
ふたりの距離は縮まらない。


 ぶんぶんとちぎれんばかりに首を振り、もう一度ぐぐぐっと腕を伸ばす。
もちろん、ぎゅっと瞳は閉じたまま。
やっぱ無理……ぷつんと勇気が途切れたとき、震える手のひらが何かに触れた。
「っ………!?」
 柔らかい感触に、思わず身体を震わせる。
ぐるんと右に首を回して隣を見ると。
空を切ったハズの右手は、少女にきゅっとつかまれていた。
「………あ……とっ……は、ははっ…にゃはははっ……」
 あまりに急な展開で、渇いた笑いしか出てこない。
「……何か…さっきからひとり漫才してたから…。具合悪いのかなって……」
「えっ、いやっ……な、何でもないのよ〜ん!」
 わたわたと両腕を振る。でも右手は、ぎゅっとつないだまま。
無意識に頬が熱くなっていくのが解った。きっと、見た目にも変化をしているに違いない。
「風邪…?」と、心配そうな眼差しを向けてくる彼女。
「そ、そんな辛いモノじゃないっちゃっ!へ、へーきへーきっ!へへへへ〜……」


動悸にめまい。そしてじんじんと頭にしみる微熱。

―――それすなわち、甘い恋の病でしょう。





信子さんが好きすぎる彰くんと、それに気づいていない信子さんにきゅんきゅんです。(危険)

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