昔から、この「チカラ」のせいで、爪弾きにされていた。
同年代の奴等も、大人たちでさえも、俺に近づこうとはしなかった。
「生意気だ」と、陰口を叩かれて。



物珍しさから近寄ってくる奴もいたが。
そんなもの、腹立たしさ以外の感情は生まれなかった。


それなのに。




--- nature ---




「棗、こんなところにおったんか。」
ソプラノの声が遠くで響き、棗は薄く目を開けた。
続いて、この声の主であると思われるツインテールの少女の大きな瞳が目に入る。
薄茶色の髪が、日の光に透けて眩しかった。


「……何しにきた、水玉。」
しばらくの沈黙に附いて出た言葉は、やはり彼らしいと言おうか何と言おうか。
「だから、水玉じゃあらへんって!」と大声で叫ぶ少女を横目に、棗は大きく欠伸をする。
少年は寝起きは良い方であったが、さすがに直後だと頭がはっきりとしない。
なぜ今、このような事態に自分はあるのか。
(…確か4時限目が鳴海の授業だったから、かったるくてココに昼寝に来たんだっけか。)
ここは、広いアリス学園の一角にある大きな木の下。
木陰が涼しく、昼寝にはもってこいの場所。なにより人が来ないということで、そこは彼のお気に入りの空間であった。
そんな至福の時を、たった今、この少女に邪魔されたのだ。


「オイ、よくも起こしてくれたな……。」
「何でそーなるんや!折角、昼食の時間だから呼びに来てやったのに。有難く思わんかいっ!」
言われてみればそれはもっともな意見だと言えよう。もしも蜜柑が起こしに来なかったら、昼食抜きになるところだったかもしれない。
「……別に、起こせなんて頼んでねーし。」
「っか〜っ!どこまでも可愛くないやっちゃなっ!」
そう言うと、少女はぷうっと頬を膨らませる。



―――可愛くない。



「じゃあナニか、俺が可愛い方がいいってのか?」
「う…ソレはちょっとちゃうんかなぁ……。」
棗の言葉に、本気で考え込んでしまった蜜柑。
可愛い彼なんて想像できない。否、むしろ想像してはいけない。
腕組みをしたまま、むむむ…と悩んでいる、そんな彼女の姿に、
自分の胸に流れてきた、どこか 甘酸っぱい気持ち。


気が付いたときはぷっ…と 吹き出していた。
それは、彼自身も無意識だったけれど。
「なんや棗っ…今の笑いはっ……」
無礼な行為と真っ赤になって怒り出す蜜柑。
こんなのは、日常茶飯事。



―――相変わらず



「変なヤツ……」
呆れたような、楽しそうな小さな呟きが聞こえたかと思うと、ふっ、と蜜柑の顔に影がかかった。
同時に、唇を軽く、何かが掠めていく。
一瞬、彼女には何が起こったのか解らなかった。
………ソレは、つまり、こーゆーコトで。
「ななっ……な、な………」
声ならぬ声を発している蜜柑。
「さて、早く飯食いにいかねぇと、なくなっちまうかもな……」
気にする様子もなく、飄々と去っていく棗。
その後姿に、
「な、な、なにすんねんバカ棗―――――っ!!!」




静かな中庭に響いたのは、
ありったけの力を込めた少女は叫び声のみ。





自然なじゃれあいだと断言してはだめですかそうですか。

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