恋なんてしてない



 人生はゲームだ。そう思っていた俺が、軽い気持ちで始めた少女のプロデュース。
そりゃあ、当初はどうなることかと思ったけれど。

 時が経つにつれ、幽霊のようであった彼女の頬に紅がさすようになった。
ぎこちないが、唇の端に笑みが浮かぶようになった。
地面とばかりにらめっこしていた瞳が、いつの日にか空の蒼を映すようになった。
 そう、変わり始めていた。でもそれは決して自分だけの力ではなくて、協力をしてくれた仲間と、何よりも彼女自身の力があったからこそであって。

「野ブタ、カワイイカワイイっ!」
 俺の隣で茶色の頭を揺らしながらぱちぱちと手を叩いているのはもう一人のプロデューサーである草野彰。コンコン、というおなじみのポーズを彼女にとらせ、ご満悦の様子だ。
彼女に賞賛の声をかけること自体は悪いことだとは思わない(決して嘘は言っていないし)。しかし何を考えたのか、奴は俺にも同意を求めてきたのだ。「ね、修二、カワイイよね」とかなんとか言いながらへらへら笑いを浮かべて。
予想外のことに、俺はすぐ返答できなかった。可愛いって言うのか、コレは。でも可愛くないと言ったら、自分の意志に反するような気がする。

(……確かに、以前より幾分かはマシだろうな)
 でもこの気持ち、安易に言葉にしていいものだろうか。
足元を睨み、ひとり思案していた俺。ふと視線を上げると、期待に満ちた彰の瞳が見える。その横には、何を考えているのか解らない無表情の彼女がいて、俺は何だか居たたまれない気持ちになった。
 この状況から逃れることはできないのか…思考が横道にそれたそのとき、予鈴が高らかに響いた。よかった、解放される……思わず心の中でよっしゃ、とガッツポーズを握らずにはいられない。
「あ、授業が始まるな。教室に戻らないと。」
「えええっ、ちょっとしゅーじ答えはー?野ブタも聞きたいよねぇ〜!?」
「そんなコト言っても遅れたら困るだろ!そんなに気になるなら後で言うから、な?」
「……じゃあ授業の後に絶対聞いてやるだっちゃ。」
 屋上の扉に向かって歩く俺の後からしぶしぶついてくる彰。その後に野ブタが続く。
後でと言っても、奴はきっと覚えていない。次の時間は生物で、彼の睡眠時間になることはほぼ間違いなし。起きた次の瞬間、奴の頭の中は他のことでいっぱいになっているだろうから、少し前の約束なんて忘れ去っているに決まっている。
 我ながら姑息だと思いつつ、こっそりと安堵のため息をつく。教室に続く廊下を歩きながら後を振り返ると、長い黒髪の間から覗く瞳と視線がかち合った。

―――同じ時間を過ごすことで生まれてくる愛着のようなものだよ、きっと。

 強引な結論だと自分でも思うけれど。
まあ、気になる存在になったってことだけは、一応認めておこう。





まだ無自覚修二くん。
どうやら私は、彼を片思いキャラにしたいらしい(笑)。

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