夢想
まゆらは珍しく、一人窓辺に座り、ぽーっと雲を眺めていた。
風が頬をなでていく感覚が心地いい。
(みんな、今ごろなにしてるのかなぁ〜)
窓の外に、走っている学ランの青年が見える。
そこから連想できるモノ・・・・・・・・・
(学ランといえば、鳴神くんよねぇ〜)
彼は、いつでもどこでも学ランである。(まゆらもいつもセーラー服なのだが)
たまに、他に服は持っていないのかなぁ、と思ってしまうことさえある。
(学ランじゃないときって、バイトの制服着てるときくらい・・・だよねぇ?)
そういえば、鳴神くんは自分のことを鉄腕アルバイターだとか言ってたなぁ。
まゆらの頭に、『鉄腕アルバイター』の法則なるものを得意げに語る彼の姿が浮かぶ。
(ソレにしては、いつもすぐにクビになるのよねぇ〜)
可哀想だな、と思っていても、ついつい笑いがこみ上げてくる。
(だけど、鳴神くんは自分で生活費を稼いでるんだもん、偉いよね。)
うん、とまゆらはひとりで頷いた。
(あ、あのこ レイヤちゃんみたい。)
窓の外に、母親らしき人に手を引かれ 楽しそうにスキップをしている女の子が見える。
(でも、レイヤちゃんにお母さんは・・・・・・)
まゆらの顔が曇った。
レイヤは自分と同じだ。物心ついた頃には母親は居なくて、その上、事件で父親も亡くしている。
まゆらは父親が元気なだけ(元気すぎるケド)いいかもしれない。
(そういえばレイヤちゃん、最近料理に凝ってるって言ってたなぁ・・・)
執事の見野さんのコーチで、一生懸命で台所に向かう彼女の様子が目に浮かぶ。
・・・・・・レイヤちゃんは がんばりやさんだから・・・・・・・・・
(あ、あの人かっこいい!)
まゆらの目線の先には、背の高い素敵な青年が歩いていた。
いいなぁ・・・と思いながら目で追いかけていると、隣には可愛い女の子が・・・・・・
(・・・彼女サンなのかなぁ・・・?)
不意にそのとき、なぜかロキの顔が浮かんだ。
(なんでロキくんが!?)
ふるふるとまゆらは首を振った。
ロキはまゆらが助手を申し出た探偵社の主、つまりは探偵なのである。
小学生なのに学校に行かず(登校拒否??)、キレイなおねえさんが好き(探偵は硬派がイイよね!)という子供らしくない子供だ。
(・・・でも、頭はいいんだ・・・。)
まゆらは窓辺に頬杖をついた。
ロキはいろんなコトを知っている。なので、これまでの事件も全部解決してきている。
まゆらのことだって そんなに話していないのに、ロキにはずばり!!と解ってしまう。
それに比べて、自分はロキのことを何にも知らない。
・・・・・・・・・一緒に居る時間は多いはずなのに。
全てを悟りきったような大人びた口調も。
時折見せる 淋しそうな表情の理由も・・・・・・・・
・・・・・・・・・・なにもかも、自分は知らない。
(・・・だって、なんにも言ってくれないんだもん・・・。)
今ごろ、なにをしているのだろう。
広い屋敷の書斎でいつものように難しそうな本を読んでいるのだろうか。
まゆらはこんなことを考えながら、ふっと微笑んだ。
ちょっと、行ってみようかな。
・・もしも、もしも私があのドアを開けたら・・・?
大きな椅子がぐるっと回って、困ったようにロキくんは、『うるさいな、まゆらは。』って言うのかな?
それとも 私は、『なにしにきたのさ、独りにさせてよ。』って怪訝そうな瞳を向けられるのかな・・・?
まゆらがおもむろに立ち上がったそのとき、窓の外から声がした。
「なにしてんの、まゆら。」
(えっ・・・?)
そこには、ロキが立っていたのだ。あまりに突然すぎて、まゆらは戸惑う。
「ろ、ロキくん!?どうしてココに??」
「なんか来ちゃいけないみたいな言い方だねぇ〜ヤミノくんがさ、クッキー焼きすぎたからまゆらに持っていけって・・・まったく、ボクにこんなコトを頼むなんて・・・」
ぶつぶつ言っているロキの手には、クッキーの包みがしっかりと握られていた。
(もしかして、逢いに来てくれたのかなぁ??)
「なにぼ〜っとしてんのさ。せっかく来たんだから、お茶ぐらい出してよね。」
「う、うん!」
ぱたぱたと玄関まで急ぐ。
そして、扉を開いて。
「ありがとう、ロキくん・・・!」
いろいろな気持ちを織り交ぜて。とびっきりの笑顔で。