近すぎて、気づけなかったモノもある。



モノクローム



「ね〜っ、光太郎の好きなタイプってどんなの〜??」

俺の隣で、茶髪、ミニスカの女が 鼻にかかった声を出した。
ソレに加えて 上目遣い。
普通の男なら、一発でころりだと思われるしぐさ。



「んー・・・そーだなー・・・年上、もイイんだケド・・・。」
俺は ちらり、と横目で彼女を見て、



『やっぱり、キミみたいなコかな。』



このセリフで、街で捕まえた女は たいていおちる。
そう、おとせるんだぜ。 いつもなら。







ぱちん!!





乾いた音が響いた。
同時に、茶髪女は 俺から走り去っていく。
「超ムカツク!!」と叫んで。

「・・・ってぇ〜・・・。」

俺は、叩かれた右頬を押さえた。
まあ、平手を受けるのも当然といえば 当然だな。
『好きなタイプは?』って聞かれて、
『オマエみてーなヤツじゃないコトは確かだな』 なんて、面と向かって言っちまったんだから。









夕日を背に、俺は独りで街を歩き出す。

らしくねぇな。

ホントなら、さっきの女とうまくいってたハズなのに。


ひんやりした風が、熱い頬をかすめた。




「・・・畜生。」




ソレは ナンパが失敗したから出た言葉なのか、
それとも、このやるせない気持ちから出た言葉なのか。
自分でも、解らなかったケド。







ただ、







夕日に照らされて伸びる一本の影を見てると、
なんだか、もの淋しい感じがして。







俺は ポケットからケータイを取り出した。
そういえば、今日は補講の日だった。
マジメなアイツは ちゃんと出てんだろうな。
俺みたいに、制服で家を出たはいいけど、途中で街をぶらつくなんてコトはなく。





俺は無言で、取り出したケータイをしまおうとした。







そのとき、







「光太郎じゃない?」







背後から 聞きなれた、声。









振り向くと、オレンジの街がひときわ眩しくて。



「・・・ホタルか?」



確信はあったケド、俺は応答を待った。

「・・・そーだよ?」

くすくす笑って答える彼女。



「そうか・・・。」



ふわふわと風になびくアイツの髪が橙色に染まって見えて。
そのまま、暫く 向き合っていた。







街の雑踏も、車のエンジンも、何も聞こえない。
ただ、無音の世界を作り出して。







「・・・・・・光太郎??」
黙り込んだ俺を、ホタルの心配そうな顔が覗き込んできた。

俺はゆっくりと笑み、口を開く。



「・・・ホタル、俺な・・・・・・」



睫毛が揺れる瞳を じっと見つめて。



「・・・俺はな、髪はセミロングで、目は大きくて、めんどっちい補習にもちゃんと出るマジメで、
そんでもって 優しい女が好きなんだぜ。」







ホタルは不思議そうな顔をして、首を傾げている。







「・・・そうなの?ソレは初めて聞いたなぁ〜」

にっこり笑うホタル。 それを見たら、心にあったもやもやが なんだか溶けていく感じがした。







『たいていの女は、このセリフで おちるんだ。』








あまりに遠回しすぎて気づかれなかったのか、
それとも、気づいていて かわされたのか。







どちらにせよ、俺は ほっとしていた。
・・・自分でも、無意識のうちに。









「ホタル この後予定ナイんだろ?飯でも食いに行こーぜ!」
「えっ・・・ちょっと光太郎??・・・きゃ・・・」



強引にホタルの腕を引っ張り、俺は歩き出した。
下心ミエミエの 男達に目を付けられないように。




夕暮れの街、並んで揺れる 二つの影を 見つめながら





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