My Little Knight
「ひゃああああ〜〜〜!!」
日曜日の朝平和な草摩家から、突如、悲鳴が上がった。
庭で早朝トレーニングをしていた夾は、何事かと悲鳴が聞こえた方へ走る。
「どうした透!?」
どうやら、悲鳴の発生源は洗濯機の前だったらしい。
へたり込んでいる透の後ろ姿が見えた。
大事ではないようだとほっとした夾は、とりあえずその背中に声をかける。
「何かあったのか?」
「あ…夾くん…。」
振り返った透は、無言で床を指差す。
「あの、えと…蜘蛛さんです。」
「…蜘蛛ぉ??」
「……はい……」
呆れ顔の夾を見て、透は慌てて言い訳。
「あの…これはですね、
私がお洗濯物をかごに入れていたときに突然クモさんが目の前に降りてこられまして!!
つい大きな声を出してしまったのです〜ごめんなさい、クモさんっ!!」
そして、床を張っているクモに向かって、ふかぶかと頭を下げる透。
思わず夾は吹き出してしまう。
「え、あ、夾くんどうなさいました!?…なにかおかしいですか??」
「なんでもねーよ、んなコトよりすげー声だなお前。なんかあったかと飛んで来ちまったじゃねーか。」
「……Σえっ…すみません〜…」
(は、恥ずかしいです………。)
そこにひょっこりと紫呉が現れた。珍しく早起きだ。
「どーかしたの、透くん?凄い声だったけど…」
「紫呉さんっ!?えと、おはようございます!!…あの、…はいっ…;」
わたわたして答えになっていない透の代わりに、夾が口を開いた。
「なんでも、クモが出たんだとよ。まったく人騒がせなヤツ…。」
ソレを聞いた紫呉は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐにいつもの調子に戻って、
「そっか〜、透くんはクモが怖いのかぁ〜〜♪」
……なんだか嬉しそうだ……。
「え、いえ、別段そういうワケではなく…」
「そおかそおか〜カワイイねぇ〜〜vv」
紫呉には、透の声が届かなかったらしい。
独りで納得し、一通り騒いでから紫呉はくるっと二人に向き直った。
「でもね透くん、蜘蛛は怖い生き物じゃないんだよ。昔は蜘蛛は『恋人が現れる前兆』って言われてたんだから。」
「そーなんですかぁ〜…」
「へぇ〜クモがなぁ…」
博学な紫呉の言葉に、普通に驚く素朴な透と夾。
「さて、透くんの所に一番に来てくれた恋人はダレかな??」
「Σえっ…あのっ…そのっ…」
悪戯っぽく尋ねる紫呉に、透はうろたえてしまった。
ごんっ。
ご機嫌な紫呉に夾の無言の裏拳が入った。
「余計なこと言ってねーで、さっさと仕事しろっ!この三流小説家っ!!!」
どやされた紫呉は拳に怯んだ様子もなく、「若いねぇ〜♪」などと呟きながらカラカラ笑って去っていった…。
残されたのはりんごのような顔の二人。
「なぁ〜にが『恋人』だよ…意味違うだろが…」
「えっと…どうしてこんなに顔が熱いのでしょうか…」
高校のとき、古典の時間に思いついたネタらしいです(笑)。