―――-冬…それは学生たちにとって試練の季節…



LIFE GOES ON



「ほらそこっ!しゃべりながら走るな!」
 この季節だというのにTシャツ一枚(下はジャージだが)のゴツイ男が叫んでいる。
そして彼が叫んだ先には、二、三人のジャージ姿の学生が固まって走っている。
なにを隠そう(隠さないけど)彼らは今、校内マラソン大会に向けて練習中なのである!

「だいたい、マラソン大会の一週間前から練習始めてもねぇ〜」
「そうそうっ!意味あるのってカンジー」
「毎日学校の外周を一周なんてめんどいよ〜」
ひそひそと文句を言っている学生に向かってTシャツ男(もとい体育教師A〔仮名〕)はさっきより大音量で叫んだ。
「コラ〜!真面目に走らんかぁ〜〜〜!!」





…そんな中、ひとり真面目に走っている男子高校生がいた。
黒い髪に正義感の強そうな瞳。それは自称〈正義の味方〉、鉄腕アルバイターの鳴神だった。
いつもは学ランだが、さすがの彼も冬の体育の時間はジャージである。
「ふわぁ〜息が白いなぁ〜」
周囲には人もなく、走りながら息をはく鳴神。
別に友達がいないわけではないのだが(いや、むしろ多いハズ…?)彼は独りで走っていた。
さっきまでは何人かの友達と一緒に走っていたのだ。
そう、さっきまでは………




〜回想〜



「お…お〜い…ナル〜待ってくれぇ〜」
「なんだよぉ〜なっさけね〜な!」
鳴神は疲れてへたっている友達を振り返る。このセリフを言ったのは、走り出してから初めてではなかった。
友達は、はぁはぁと荒い息を吐きながら鳴神に弁解する。
「だ…だってよ〜、お前、走るの速すぎんだよ。一緒に走ってた他のヤツら、みんなペースダウンしていったぜ。俺のやっとの思いでついてきてたけどさぁ…も〜ダメだ!先に行ってくれよ〜!!」



…最後の方は、涙声だった…



「そっかぁ?んじゃ〜先行ってるぜ〜!」
鳴神はけろっとした顔で言い、その場に友達を残して再び走り出したのだった。



〜回想終了〜




「だいたいよ〜、日頃からみんな鍛えてナイのがいけないんだよなぁ〜」
鳴神は走りながら独りごちる。
「正義の味方としてはだな、毎日のランニングを怠ってはいけないんだよなぁ〜、うん!」
独りで演説をし、独りで納得する鳴神であった。


気が付くと、彼はさっき通った道をまた走っていた。
相変わらず周りには人子一人見当たらない。先頭を走っていたから、一周遅れの人を追い抜いてもいいはずなのに……
「あっちゃぁ〜どこに校門あったっけ??」
どうやら、途中校門に気付かずに走ってきたらしい。
「まあ、この道を行けばまたつくだろうな〜…と…?」
鳴神は足を止めた。

見覚えのあるTシャツに声をかける。
「せ〜んせ!こんなとこでなにしてんすか??」
体育教師Aは声に振り向き、鳴神を見て少し驚いたように言った。
「なんだ鳴神、前を走ってたんじゃないのか?…ははあ…また一周多くまわっとったんだな?」
「は、はァ…まぁ…ね」
実は校門を無視して走るのはいつものコトだった。
決まりが悪そうに頭をかく鳴神は、その場にまだ人がいることに気付く。
「…あれ、大堂寺じゃね〜か、どうしたんだ?そんなとこに座り込んで…」
まゆらに駆け寄る鳴神。まゆらは歪んだ顔をして、足を押さえている。
体育教師Aは困ったように言った。
「大堂寺がなぁ、足を挫いたらしいのだ。」
それを聞いた途端、鳴神は顔色が変わる。
「な、なにぃ〜!大丈夫か?!大堂寺!!」
まゆらはこくりとうなづいて鳴神に笑いかけた。
しかしその笑顔は明らかに無理をしている。
「それで先生、どうするんすか?」
鳴神は体育教師Aを見た。
「う〜…ん、そうだなぁ…わしはまだ走っている生徒がいないか見回らねばならんしなぁ…おお、そうだ鳴神、お前が大堂寺を連れて行ってくれ!」
「なるほど…って、え??!」
「そ〜ゆ〜コトでな!頼んだぞ〜!!」
そう言い残すと、体育教師Aは鳴神が来た方向に消えていった。 暫くぼーぜんとしていた鳴神であったが、正義の味方としては頼まれごとをこなさなければならない。それに、まゆらをこのままにしておくわけにもいかないし……
「大堂寺、立てるか…?」
「…うん、へーきだよ〜…」
まゆらは笑って立ち上がろうとしたが、足に力が入らずにまたへたりこんでしまった。
「だ、だいじょぶか?!」
「う〜…ん、けっこ〜痛いのよね、これが……。」


……こんなんで歩けるワケねーよな。


思案した結果、鳴神はしゃがみこみ、まゆらに背中を向けた。
まゆらにはその行動の意味が分からず、きょとんとする。
「え…なあに、鳴神くん??」
「…だから、俺におぶされって言ってるんだよ」
まゆらの問いかけに、照れているのかソッポをむいたまま怒鳴るように言う鳴神。
まゆらはびっくりして首を振る。
「え…ええ?!いいよぉ〜!重いよ、あたし…」
鳴神は振り返り、呆れたように言った。
「あのなぁ〜、お前足痛くて歩けないんだからしょーがねぇだろ?」
「まあ…そうだけど…きゃ…!」
「そ〜思ってんならおとなしくしてろっつ〜の!」
鳴神は、半ば強引にまゆらをおんぶすると歩き出した。





「…鳴神くん…重く、ない…?」
後ろからまゆらの心配そうな声がする。
鳴神は前を向いたまま、あっはっはと軽快に笑った。
「まぁ〜、ロキと比べれば重いかもなぁ〜」
「あ〜、なにそれぇ??ロキくんと比べないでよぉ〜!」
まゆらはむくれて笑っている鳴神の髪の毛を引っ張る。
「イテッ!なにすんだよ〜っ、お前けが人なんだから静かにしてろよ!」
鳴神はまゆらの方を恨めしそうに見た。
「あ…ごめんなサイ…」
まゆらは鳴神におんぶしてもらっているのを思い出して、恐縮したようだった。
暫く無言で歩いていたが、やがてまゆらが口を開いた。
「…ねぇ、鳴神くんってさ、お日様の匂いがするよね。」
「はァ?!なんだよ、ソレ…」
まゆらの急な発言に、変な声を出してしまう鳴神。
まゆらは「う〜ん…」と考えると、ぽん!と手をたたいた。
思わず立ち止まってしまう鳴神。
「そう、なんだか晴れた日に干したお布団ってカンジ!」
「…フトン…」
呟いた鳴神の首の辺りに、まゆらの吐息がふわりとかかった。
「ふわぁ〜気持ちいい〜…」
そう言うと、まゆらは頭をこてっと鳴神の肩に乗せた
鳴神の顔は、かぁ〜っと熱くなる。


…っ…なに考えてんだ!俺はっ!!
ふるふるっと頭を振ると、また歩き出す。心なしか早足だ。



……なんなんだよ、なんなんだよ…どうして大堂寺にどきどきすんだよっ……
…だいたい、大堂寺には……いやいや、そ〜じゃなくて…あ〜もぅ……



ごちゃごちゃ考えていた鳴神は、いつの間にか学校の前まで来ているのに気付いた。
慌てて校門をくぐる。
「…お…おお。今度は通り過ぎなかったぞ!俺って偉いだろ?大どー…」
まゆらに振り向いた鳴神は思わず口をつぐんだ。



――まゆらが鳴神の背中で安らかな寝息をたてていたから……



鳴神は学校とまゆらの寝顔とを見比べる。
昇降口まではもう何メートルもない。
「…仕方ね〜な…」
鳴神はくるりと後ろを向くと、また門をくぐった。
下を向いて、ランニングコースのラインに立つ。





「…今日はもう一周回ってやるよ…!」





初めて書いたナルまゆ文。
彼らは「友達以上恋人未満」な関係がすきです。ツボです。

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