「まゆらってなに座??」
お昼休み、お弁当を食べていた私は、すぐ向かいの席でファッション誌を読んでいた夏穂に 急に話しかけられた。
「えっとね〜、7月20日生まれだから……かに座だよ?」
むぐむぐとウインナーをほおばりながら答えると、
夏穂はふんふんと頷きながら手にした雑誌のページをめくっていく。
「かに座の今日の運勢は――――… まっ、まゆらっ…大変だよ!?」
「ん??」
目の前でいきなり慌て始めた夏穂は、「コレ見てっ!」と開いたページを見せてくる。
ソレは 星占いのページで。
かにのかぶりものをかぶった女のコのキャラクターが 涙を流しているイラストが描かれていた。
「『かに座の貴女には、今日はとんでもない災難が待っているコトでしょう』だってっ!!」
ココロのやじるし
『とんでもない災難が、貴女を待っているコトでしょう』
はぁ〜っ……まゆらは深い溜息をついた。
さっきの星占いのせいだ。
普段なら占いなどそんなに気にならないが、アレだけは夏穂曰く 「とてもよく当たる占い」だったらしく、あの後放課後まで「気をつけるのよ、まゆらっ!」なんて言われ続けていたら 気にせずにはいられないというものである。
こうして普通に道を歩いていても、背後から何か物音がしようものなら きっ、と身構えてしまう自分が、まゆらは少し嫌だった。
「ろ、ロキくんに相談しにいこーっとっ!」
おびえる心を慰めるかのように、まゆらはわざと元気な声で叫ぶと 早足でいつもの場所へ向かったのであった。
「はぁ? 災難が起きる??」
燕雀探偵社の一室に、ロキの素っ頓狂な声が響き渡る。
先ほどまゆらが血相を変えて飛び込んできたときは何事かと焦ったロキだが、詳しく話を聞いていくにつれ、彼の顔はだんだんと相手を小ばかにしたような表情へと変わっていった。
しかしそれに比べ、まゆらは今だに不安げな顔をしている。
ロキは はぁ〜っと溜息をつくと、重い口を開いた。
「あのねぇまゆら、世界中にはまゆらと同じ星座の人間が 何万といるんだよ。
そんな占いなんかで人の運命が決まるわけないじゃないか。」
「でもっ…夏穂はこの占い、よく当たるって……。」
「だーかーらーーっ…だいたい、探偵になりたいって毎日言ってる人間がこんな非科学的なモノを簡単に信じるなんて………。」
その言葉で、何かがはじけたような気がした。
まゆらは勢いよく立ち上がると、涙の溜まった瞳で きっ、とロキを睨む。
「解ってもらえないなら もういいもんっ!…ロキくんなんか…ロキくんなんかっ……」
「ま、まゆら…??」
「さよならっ!!」
近所中に聞こえるくらいの大声で叫んだまゆらは、ドアも閉めずに部屋を飛び出した。
◇
……どうして こんなコトに………。
夕暮れ時の公園。
彼女はひとり、ブランコに腰を下ろして考え込んでいた。
キィ、キィ、という音と共に、少女の長い影もゆらゆらと揺れる。
「……あんな風に言われるの、解ってたハズなのに……。」
非現実的な意見なんて、あの少年にかかれば一刀両断されることは目に見えていた。
自分を慰めてくれるような甘い言葉なんて、簡単にもらえるはずがなかったのに……。
それでも。
私は、何を望んでたのかな……?
「やっぱり、今日はついてないんだぁ〜……」
俯くと、無意識のうちに涙が流れてくる。
えへへ、泣き笑い。
顔が 情けなく歪むのが分かった。
「まゆらっ!!」
呼ぶ声に、まゆらはそっと顔を上げる。
そこには さっき自分がひどいことを叫んでしまった相手が、息をきらして立っていた。
「…ロキくん……。」
「こんなトコで何してんのさ。いくら夏とはいえ、夜は冷えるんだよ?」
子供を諭すような彼の口調。
おかしいな、私よりもロキくんの方が子供のハズなのに。
まゆらの顔から、小さく笑みがこぼれた。
「…まゆら?」
「んーん、なんでもナイよ。そだ ロキくん、今日、夕食ごちそうになりに行ってもいいかな?」
「もちろん!…そのつもりでわざわざボクが迎えに来たんだからね。」
「行こうか」 と差し出された手に 素直につかまると、歩き出す。
一人で走ってきた道を、今度は二人でゆっくりと。
私が 占いなんて当たらないねって囁いたら、
ロキくんは悪戯っぽく笑って 頷いた。
その後
ロキ「まゆらを迎えに行った一件は、ハーゲンダッツのコーヒークリームで許してあげよう。」
まゆら「えぇーーっ、ハーゲンダッツって高いのに〜〜!!
(もしかして、コレが災難なの??)」
二ノ宮 綾乃さまのリクエストで、ロキまゆ文でした。
どうもありがとうございました!
