昇降口から見えた風景は、すっかり雨模様だった。



ふたりでひとつ




「あーあ、降って来ちゃったね。」
「……今日、午後から降水確率70%って言ってた……」
 へらへらと笑いながら天を仰ぐ彰の横で、信子が冷静にそう告げる。
「そういえば、朝おっちゃんが「傘持ってけよー」とかなんとか叫んでたような気がするなり〜。」
 でも晴れてたから持ってこなかったケド。そう付け加えて笑うと、信子は静かに鞄の中から折りたたみ傘を取り出した。
いきなり鼻先にずいっと傘を突き出された彰は、目をまんまるく見開く。
「……私、置き傘あるから。」
 貸してくれる、ということなのだろう。
俯いてオレンジ色の傘を差し出す彼女の右手は、微かに震えていた。


 さあさあ、と雨の音が響く。
下校時刻を知らせるチャイムが鳴ってから暫く経っており、周りに生徒は見あたらない。
空が雲に覆われ、薄暗い廊下。
信子が傘を出してからそんなに経っていないはずなのに、二人を包む静寂が時間を長く感じさせた。


「……あんがとさん」
 そう答えて、信子の目の前にいる少年は少し微笑む。
しかし、いくら待っても傘を受け取る様子はない。
信子は不思議に思って、そっと顔を上げる。
前髪の間から優しくこちらを見つめる瞳が見え、とくんと心臓がはねた。

「あ、あの……」
「どーせならさ、傘はいっこでいいじゃん」
 おずおずと差し出された傘をやっと手に取り、彰は悪戯っぽく笑う。
そして、ぽかんとしている信子の耳元に、そっと唇を寄せた。


―――置き傘はさ、また次の雨の日にふたりで使えばいいじゃん?





たまには格好いい彰くんを書きたくて。

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