民俗学者サンと、鬼食い天狗サンと、妖狐サンと
それは、秋の長い夜のおはなし。



甘味夜話



拝啓。

木々の葉も色づき、すっかり秋らしくなりました。あなたはお変わりありませんか?
…なんて、毎日逢ってるのにいまさら手紙をかくなんておかしいかな?
でも、こんな夜はあなたと一緒に居たいと思うの。
大きな月のよく見える場所で、一緒に空を眺めていたいな、って思うの。
その気持ちを伝えるために、手紙もたまにはいいよね?




それはほんの数行。
途中までの、誰にあてたのかも解らない手紙。



ある日の夜更け、薄暗い電灯の下で思案している二人の男達が居た。
「ねえ、春華…コレってどう思う??」
「どうって…アレだろ、恋文…とかゆー…。」
「うん、春華にしてはなかなか素直な答えでよろしい。」
「あのなぁ…」
冗談は置いといて、という感じで勘太郎は再び手紙を広げた。
「ここにはさっきまで人がいた形跡がある、というわけで…コレを書いたのは、ヨーコちゃんに間違いナイね」
「そうだな、今日はあのスギノもいねぇしな…」
「と、いうコトは、問題はひとつ……」

きらり、と勘太郎の目が光る。
「この手紙は誰宛のものなのか、というコトだよねーーー!!!」



ぼかっ!



大声で叫んだ勘太郎の頭に春華の拳が入った。
「いったいなー、なんなんだよ、春華!」
「…あんまり大声出すな、アイツに聞こえるだろーが」
そう、さっきまで茶の間に居たらしいヨーコは、今、お風呂中なのだ。
勘太郎と春華は、誰もいなくなった茶の間で偶然遭遇。そして書きかけの手紙を発見し、今に至る、というわけである。
「…文脈から推測して、この手紙はこの家にいる人間へあてたモノと見て間違いナイね。」
「バイト…も毎日行ってるわけじゃねーしな…。」
「と、ゆーコトは!!」




『コレは、ここにいるどちらか宛の手紙!!』




「…春華はさー…こんな手紙貰っても、別に嬉しくナイでしょ〜??」
「…んな…?!そんなワケ…」
白い目で、冷たいコトを言う勘太郎。その言葉に、春華はたじろいだ。
そんな春華を楽しそうに見ている勘太郎。
「ナニ??ボクは言えるよ。ヨーコちゃんから恋文が貰えたら嬉しいな〜ってv」
「…俺だって…」
口ごもる春華に、勘太郎は更に言い放った。
「だってボク、ヨーコちゃんを愛してるもーんvv」
「う……」
「もっと言えるよー?ボクはヨーコちゃんを愛してる、愛してる、あいしてる〜v」
こんな言葉、春華には言えないよねぇ??という瞳で勘太郎は春華を見てくる。
勘太郎の態度に触発された春華は、肩を震わせ、思わず叫んでいた。
「…俺だって、お前に負けねぇぐらいヨーコのコトを愛してる〜〜〜〜!!!」
「え、私がなあに??」



春華の背後に、お風呂からあがってきたらしいヨーコの姿。

ぴきーん、凍りつく部屋。



止まった時間を元に戻すかのように、勘太郎はこほん、と咳払いをした。
「なんでもナイよ〜♪…ところでヨーコちゃんさあ、この手紙、誰に出すつもりなの?」
勘太郎がひらひらと揺らした紙を見て、ヨーコは赤面した。
「そっ…ソレはっ……なんでもナイのっ!!」
「へぇ〜〜?気になるなぁ〜…」
「もう、いいでしょ!おやすみー!!」



どたどたと自室に帰っていくヨーコを見て、勘太郎は小さくため息。
「あーあ、この件は迷宮入りかぁ〜…」



それぞれの想いを馳せながら、夜は更けてゆく。






ただただ、ヨーコちゃんが愛されている話を書きたかっただけです(笑)。

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