好きな人と一緒に居られるのが、一番幸せなコトだから。




Imitation Happyness




昔、在るところに男と女が居た。
二人は 互いに愛し合っていた。しかし、その愛ゆえに 別れる事になったのだ。
互いの幸せを考え、二人は別々の道を歩むことをきめた。





それが、一番幸せな方法だったから・・・・・・。







「此れが愛し合っていた二人の末路である・・・・・・って、聞いてました しのぶさま?」
「・・・・・・聞いてたわよ、失礼ね。」



マンションの広いリビング。
そこでは 主、御城紫信と 従者、奥 才蔵が向かい合って座っていた。
二人の間には、そんなに大きくない机。その上には一冊の本と、幾枚かの原稿用紙。



「だいたい 正兄さまも正兄さまよ。せっかくの連休に宿題を出すなんて!」
しかも、読書感想文よ!?と しのは叫ぶ。
本を読んで 文を書くのだから、時間がかかること この上ないのは確かだ。
しのは、自分で本を読むのがめんどくさいと 才蔵に読ませていたのだが。



「・・・で、それで終わりなの、才蔵?」
明らかに不機嫌な瞳を向けられ、才蔵は戸惑いながら え、あ、はい・・・と答える。
「・・・ふ〜ん・・・」
しのは小さく 欠伸をひとつ。



「・・・しの の感想はね、『二人は幸せにはなれなかったと思う』・・・以上よ。」

「・・・は・・・。」



あぜん、としか言いようがない。
『幸せだった』 と書かれていたものに対し、
それは『幸せじゃない』 と 言い切られてしまったのだから。







もし、この場に左介がいたら 「この ワガママお姫!!」とかって しのぶさまに食って掛かるところだろうな、
それでも しのぶさまは 負けずに対抗して・・・大騒ぎになるんだろうな・・・・・・
などと、才蔵は ぼんやり思った。







拗ねているしのぶさまも、とても愛しい・・・・・・・・・・。









「・・・では、しのぶさまの仰る『幸せな結末』とは どのようなものなのですか?」



ふんわりと笑み、才蔵は 問うた。



「しの の『幸せ』はね・・・・・・」







『ずっと 一緒』 がいい。







彼女は 目の前の、黒曜石の瞳をしっかりと見据え、こう 答えた。







「『別れ』が幸せだなんて 思わない。そんなモノはキレイゴトよ。逃げてるだけ。」











心臓を 射抜かれたかと思った。
その、まっすぐな瞳に。











才蔵は紫信の独白を 黙って聞いていた。
いつの間にか、膝の上に 拳を握っていたのにも気づかないくらいに 懸命に。















もしも自分なら、別れを選ぶだろう。
それが、彼女のためになるのだったら・・・・・。
こう 思っていたのは、事実。



知らぬうちに、この話に 自分達を重ねていたのも、また 紛れもない事実。











紫信はふっと優しく微笑み、固くなっている才蔵の手を取った。



「・・・才蔵は、しのから 離れないと 誓ってくれる?」







しばしの沈黙のあと、





才蔵はは静かに頷いた。





「まったく、しのぶさまらしい結末ですね。」
「・・・しのがワガママなの、才蔵は知ってるでしょ?イジワルね。」











それは まるでガラスのように壊れやすい、守れる確証のない約束。





でも、もし 出来ることなら、
この笑顔を永遠に・・・・・・・・・・・・・・・・・





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