『女の人は 三度の飯よりおしゃべりがすき。』

そう考える人がいても おかしくない。
事実、そうであるのだから。 




If




これは和久寺のメイドたちにも 例外なくあてはまることであって。
仕事の手を抜かないことと同様、口の方も休むことはないのだった。



昨夜のドラマの話、今話題のアイドルの話、最近出来たおいしいケーキ屋さんの話・・・・・・
でも 中でも彼女たちの興味をひく話題といえば、なんといっても他人の色恋沙汰だろう。




その辺のドラマよりも、芸能界よりもロマンティックな主たちの噂話。




「ねえねえ、最近の風茉さまと咲十子さまってどう思う?」
「そーねぇ・・・いつもと変わらず ほのぼのしたカンジよ?」




それは 嘘みたいだが、本当にある話。




「やっぱりすごいわよね〜風茉さまって。」
「そうよねぇ、離れている咲十子さまを 8年間も思い続けてたんだものねv」
「まさに“8年越しの恋”ってヤツよね!」

きゃ〜〜v と、桃色の悲鳴が上がる。
羨みの心よりもなによりも、彼女らは 主たちの行く末を 自分達のことのように気にかけているのだった。

「咲十子さまは 私たちが失敗をしてもご機嫌を悪くなさらないし。」
「そーよね〜 それに咲十子さまがお笑いになると ほんわかしてて、こちらまで嬉しくなるのよね〜v」
「まるで、“天使さま”ってカンジがしない??」
「するする〜〜vv」
「じゃあ、私たちは天使さまに仕えているってコトね!」





「咲十子がなんだって?」

「あ、風茉さま・・・・・・」

メイドたちの意見が一致したとき、丁度通りがかった屋敷の主、風茉。
彼女たちは少々驚いたが、別に悪口を言っていたワケではないし。

「いえ、咲十子さまって天使さまみたいですねって話していたところなんですよ。」



“天使さま”

風茉だってそう思っているに違いない。



そこにいた全員が、こう 考えていた。

「そうだな。」 と、この小さな主が照れたようにはにかむと確信していた。







・・・・・・・・・しかし。







「俺はそうは思わないな。」

短く 言い放つ。
それは照れ隠しでもなんでもなく。

そのまま、風茉は足早に去っていってしまったのだった。



残されたメイドたちは呆然としてしまう。

「・・・どうしてなのかしら?」

頭に浮かぶは 疑問符と、主が気分を害したのではないかという不安のみ。









心配したメイドの一人が 後で鋼に聞いた話なのだが、
風茉はこの天使話を持ち出してきて、不機嫌そうにこう言ったのだそうだ。





『天使ってゆーのは神に仕える者だろ。 もし 咲十子が天使だったら、その得体の知れない神に咲十子を独り占めされるってコトじゃないか。 そんなの、ゼッタイやだね!!』 と。







「あら、まあ・・・」
「風茉さまったら。」

くすくす、その場に笑い声が広がる。







それでは訂正いたしましょう。

私たちが仕えているのは 天使みたいな咲十子さまと、
その天使さまをとても大切に想っていらっしゃる、神様みたいな風茉さま、です。






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