『天気がいい日に行き先も決めず、歩いてみるのもいいもんだ。』

そう思って出かけた午後、太陽も傾き始めた時間。
なんとなく街をぶらぶらして、最後にたどり着いた場所は。



恋とはどんなモノかしら?



春華は迷っていた。
別に道が判らないとかいうわけではない。決断をしかねていたのだ。


そこは、とある喫茶店の前。
何度か勘太郎に連れられて来たことがあったが、一人で来たのは初めてかもしれない。
だいたい、用事もナイのに………


込み合う時間ではないものの、窓の向こうには幾人かの客がいるらしい。
「やっぱり止めるか。金もねェし…」
開けようかと扉にかけていた手を引っ込め、春華は店に背をむけた。
1歩踏み出した所で、ふと振り返り、大きな看板を見上げる。
「アイツ、今もまだココで忙しそーに働いてるんだろうな…。」
そう考えると、なぜか扉の前から離れられない。
…営業妨害もいいとこだ。

「あれ、鬼喰いじゃん。こんなトコで何してんの?」
「…スギノ…」
まるでその辺りの高校生みたいな口ぶりの彼は、これでも神様。
「さっきからこの辺をうろうろしてるケド、入らないのか?」
見られてたのか…。春華はちっと舌うちをした。
「イヤ、金ねぇし…」
「なんなら奢ってやるケド?」
「むーっ。」


カランカラン…ベルの音とともに二人と一匹(?)は店の中に入る。
「いらっしゃいませー…って、春華ちゃんじゃナイの!?」
「…よぉ…。」
ウエイトレス姿のヨーコは突然の春華の来訪にびっくりしたようだ。
どうしたの??と不思議そうな顔を向けてくる。
「ちょっとな、散歩。」
「お〜い妖狐、注文とってくれ〜!」
ぶっきらぼうな春華の言葉に小首をかしげていたヨーコだったが、スギノに呼ばれてオーダーをとる。
「じゃあスギノさまはコーヒーで、むーちゃんはあんみつね、えっと春華ちゃんは…」
「俺はいい。コイツらに付き合ってるだけだ。」
「そうなの?」
それじゃあ少々お待ちください、とヨーコは足早に去っていった。



「おい鬼喰い、オゴってやるって言ったじゃん!」
「…いいんだよ。」


正直、お茶をする気はなかった。


―――ただ………―――


「お待たせしました〜」
コーヒーポットにカップ、そしてあんみつを載せたトレイを持ってヨーコは戻ってきた。
「ごゆっくりね。」
机の上に置かれたポット。
「…コレ、鬼喰いの分も入ってるぜ、きっと。」
「…ああ。」



二人と一匹がくつろいでいる間、ヨーコは店の中を駆け回っていた。
「アイツも頑張るねェ〜」
「…そうだな。」


気にしていないつもりでも、春華の瞳は彼女を追っていた
「う〜ん、なかなかいないぞ、あーゆー妖怪は。」
「…ソレって褒めてんのか?」
「そりゃそーだ、ダレが見てもこう言うさ!
『こりゃこの店で一番の働き者だな』ってな★」



しばらくして一段落ついたらしい。
「今日はもう上がっていいって。春華ちゃん、一緒に帰らない??」
「ああ。」
ちょっと待ってて!と奥に走っていくヨーコ。
「…スギノも一緒に帰るか…?」
「イヤ、俺はまだむーちゃんと愛の語らいを…せっかくだし、二人っきりで帰れよv」
「…っ別にそんなんじゃっ…」
ムキになる春華。にやりと笑うスギノ。
そこにヨーコが戻ってきた。
「おまたせー、じゃ帰ろっか!」




一番星の光る帰り道。
「そーだ!今日ね、お給料が入ったの!夕ご飯フンパツしたげるv
春華ちゃん、何がいい??」
きらきらとした瞳で春華を見るヨーコ。
「…栗ご飯…。」
「よしっ!OKよ、まっかしてv」


笑いながらガッツポーズをする彼女はこれからまた一人で夕飯の支度をするのだ。



まったく、『一番の働き者』だよ、コイツは。



「ん?春華ちゃん、そんなに栗ご飯が嬉しいの??」
「…べつに…」



気付かぬうちに飛び込んできたキモチは、
いつのまにか心のなかを占めていて。



これを人は恋という?
…恋といわずに何とする…?





か  ゆ  い  !

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