決して生活が楽なわけではない。
手にした猫缶を眺め、少女は小さくため息をついた。
それでも何かしてあげたいのだ。お腹をすかせている、あのこに。



ひびきあう日常



 ふわふわの毛をなでてやると、その子はにゃあ、と小さく鳴いて、目の前の缶詰を食べ始めた。
無防備な横顔を見ていると、思わず頬が緩んでしまう。
「余計なことすんな、吉田」
 突然後ろから浴びせられる不躾な言葉。振り返ると、全身黒ずくめの男が仏頂面で立っている。
「吉田じゃない、吉川ですっ!」
 ムキになって言い返しても、相手は顔色一つ変えない。それが何だか悔しくて、すごみをきかせ(たつもりで)睨んで見せた。だが……

ぐーーー。

 タイミングの良すぎるお腹。これだけ響けば、相手にも聞こえたのは間違いない。
かぁっと頬に熱が昇る。
「だから言ったろ。自分も満足に食えてねぇくせに。」
「うっ…うるさいわねっ……でも、でも……ほっとけないんだもん。」
「下手に同情される方が迷惑なんだよ。大体他人より自分が第一だろうが、普通。……マジ変な女。」
「なによ……どーせ変な女ですよっ。あなたこそほっといてよ!」

 いつの間にか、この子をあなたと重ねていたなんて言えない。
これは同情とは違うからね。ただ、好きだからなんだよ。





クロツラ第一弾。でもクロツラというよりは氷柱→黒崎;

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