「一番、大切なモノはなんですか?」
今尋ねたら、貴方はこう答えるでしょう。



「家族」と。



それでも構いません。いえ、世界のためにはその方がいいのかもしれません。

けれど、忘れないで欲しいのです。



貴方と彼女が出会ったのは偶然だったとしても、貴方にとって彼女の存在は必然である…



ひとつだけ



「ありがとうございました〜!」

店員の明るい声に見送られ、ロキは御菓子屋さんを後にした。袋には大量の『今川焼き』。彼は午後のお茶請けを買いに来たらしい。

「この間はスピカに全部食べられちゃったからなあ〜」

こう言うと、苦笑い。しかし、ソレはとりわけ咎めるような口調ではない。

なんたってスピカはロキの大事な妻なのだから。



「スピカはたくさん食べるケド、これだけ買えば大丈夫だよね。」

ロキは手にある今川焼きの数と、家に居る者たちの数とを照らし合わせてみる。

自分の分、スピカの分、闇野の分、フェンリルの分……

そのとき、急に突風が吹いた。


「っ…なんだ?!」


思わず閉じた瞳をうっすらと開いてみると、ソコには……



「お久しぶりです、ロキ様。」

黒い、長い髪の女性。彼女は運命の女神、ノルンのヴェルダンディー。

「ヴェルダンディー…?」

ヴェルダンディーは微笑を浮かべて、ぽかーんとしているロキに問うた。

「ロキさまにとって、今、一番大切なモノはなんですか?」





「は?」

突拍子もない質問に、目を丸くするロキ。

しかし、はぁ〜とため息をつくと、

「そんなの、決まってるよ…ソレは…」

「ご家族、ですか?」

ロキが言いかけたのを遮って、ヴェルダンディーは尋ねた。

「う…解ってんなら聞くなよ…」

居心地が悪そうな顔をする、ロキ。

「…そうですか…ではコレならどうでしょう…?」

ヴェルダンディーは俯きパチン、と指を鳴らした。

すると、上からゆっくりとまゆらが降りてきたのだ。硬く瞳を閉じて。

「まゆら!??」

「大丈夫ですわ。彼女は気を失っているだけですから。」

ロキはそれを聞いて、ほっと胸をなでおろす。

「なんだ…って、どうしてキミがまゆらを…」

ヴェルダンディーは相変わらずの笑みを浮かべている。

「ロキさまは仰いましたよね?家族が一番大切だと。」

「…それがどうしたんだよ…」

「それでは彼女は、どうなんですか?」

まゆらの方を向き、静かにヴェルダンディーは言った。


「…え?」

予想外の問いかけに、ロキは言葉を無くす。しかしヴェルダンディーの問い詰めるような眼差しに押され、誤魔化すこともできない。

「それは…大切だよ…。」

ロキの小さな声を聞き取った彼女は満足気に笑った。

「ではロキさま、家族と彼女はどちらが大切ですか?」

過剰になっていくヴェルダンディーの質問に、ロキは眉をひそめる。

「…度が過ぎるんじゃないか、ヴェルダンディー。」

「答えてくださいっ!」



彼女らしくない、厳しい声。ロキは思わずたじろいだ。

「…あのねえ…そんなの、決められるわけナイでしょ…」

「…まさか、両方大切なんて言いませんよね?それは欲張りというものですわよ?」

冷たく刺さる、ヴェルダンディーの言葉。



本当に大切なモノ、それはどちらなのだろう。普通なら答えは決まっている。血を分けた家族の方がなにより大切なはずだ。



けれど………



「…なーんて、両方でも構いませんよ。」

「は…?」

ロキはヴェルダンディーの態度が豹変したのにあぜんとする。

「…ただ、大切なモノは忘れずにしっかりと守って欲しかっただけです。」

「なんだよ、ソレ…」

「あ、まゆらサン、そろそろ起きますわよ。それではロキさま、ごきげんようvv」

おほほ、と上品に笑うと、ヴェルダンディーは爽やかに去っていった。

「…なんだったんだよ……」





その後、目覚めたまゆらをなんとか誤魔化して燕雀探偵社に連れてきたロキ。

「はぁ〜、疲れた。お茶にしようか。」

帰ってくるなり大きな椅子に腰を下ろしてため息をついたロキは、そこにいたスピカにお茶の準備を頼む。

キッチンに向かうスピカの後姿を見ながら、まゆらはふふっと笑った。



「?なんなの、まゆら??」

不思議そうなロキに、まゆらは微笑んで言った。

「…別に。ただ、ロキくんから私をお茶に誘ってくれるなんて、珍しいなぁ〜って思って。」

「…そうだっけ…?」

首を傾げるロキに、そーだよ!と答えるまゆら。





――大切なひと、大切な時間――





「ロキさま〜お茶が入りましたよ〜」

紅茶と今川焼きを載せたトレイを運んでくる闇野とスピカ。足元にはフェンリルも一緒だ。

「あ、は〜い!」

元気に返事をして、給仕を手伝うまゆら。

「はいっ、ロキくん!」

「…ありがと…。」

まゆらから笑顔で差し出されたカップを受け取ったロキは、ちらっと思った。

…コレがボクの大切なモノ、なのかな?





家族サービスもいいですけれど、もっとしないといけないコトがありますでしょ?

…でないと、プレイボーイの名が廃りますわv





おまけ

ロキ「…にしてもさ、闇野くん、今川焼きに紅茶はないんじゃナイの?」

闇野「はっ…そうデスよねっ!?はぁ〜っ!すみませんっ!!」

まゆら「いいじゃない!おいしいよ〜v」

ロキ「…まゆらの味覚はわからない…」 



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