ひとりぼっちの神様


「いよ〜っし!みんな、くじを引いたか!?」

「いちいち叫ぶなよ、ナルカミくん・・・・・・」





秋の気配も感じられるある夜、いつもの顔ぶれが神社に集まっていた。

「でもさ、鳴神くんも変わってるよね〜普通、きもだめしって 夏にするものだよ〜?」
この神社の持ち主(正確にはまゆらパパだケド)、大堂寺まゆらが不思議そうに言った。
「でも楽しみですぅ〜vレイヤ、きもだめしって初めてです!」
まゆらの隣では、レイヤが嬉しそうに笑っている。

意気込む者たちとは対照的に、ロキはさっきから溜息ばかり。

「ロキくん、やっぱり神社よりお墓とかの方がよかった?そうよね〜ここじゃムードも出ないよね〜」
まゆらが能天気に言うと、ロキはまた はぁ〜っと大きな溜息をついて、
「そうじゃなくて・・・ボクはなんでこんなコトをしないといけないのって思ったんだよ。
・・・・・・・・・・しかも、こんな奴等とっ!!」
「こんなヤツとはごあいさつだねぇ〜ロキくん?」
「そ〜だそ〜だ!フレイはなにも、お前に会いに来たワケではないぞ〜〜!!」
いつもながらの反応を返す、ヘイムダルとフレイ。


お祭ごとが大好きな鳴神は、自分で計画したきもだめしに いつもは敵(?)のヘムとフレイも誘ったのであった。
もちろん、ロキにはナイショで。
「まったく、ナルカミくんにも困ったもんだよ・・・。」

なんだかんだ言っても、ロキはみんなと同じく きもだめしに一緒に行くペアを決めるくじを引かされていた。


「そんじゃ〜自分のくじの番号を発表してくれ!その番号は、行く順番だ!同じ番号同士がペアだからな〜!!」
鳴神の声で、みんな一斉に引いたくじを見る。



「フレイは3番なのだ。」
「レイヤは2番ですぅ〜」
「お、俺も3番だっ!!」
自分の手の中を見たロキはぎょっとした。
「なっ・・・・・・ボク、1番引いちゃったよ〜〜」
「あれぇ、ソレじゃロキくん、私とペアだね!」
まゆらは微笑みながら、1と書かれた番号くじを揺らした。
「んじゃ〜ロキ、大堂寺、行ってこいよ!境内まで行ったら、そこに置いてある紙に自分の名前を書いて帰ってくること!解ったか〜?」
「ロキさま、頑張ってくださいですぅ〜!」



「行ってきま〜すv」
見送る鳴神とレイヤに元気よく手を振るまゆら。
恨めしそうにロキとまゆらのペアを睨むフレイと、何かを企んでいる様子でほくそ笑むヘムは置いといて。

ロキとまゆらは、暗闇に消えていった。





「・・・ロキくん、まだご機嫌ナナメ??」
まゆらはロキの顔を覗き込んで言った。
「そんなことないケド・・・まゆらは楽しいかい?自分の家の庭を散歩してさ〜・・・だいたい、幽霊なんか出るわけないじゃん。神社にさ・・・・・・」
「う〜ん、そう言われればたしかにそうよねぇ〜」


ふたりは大きな木を右に曲がった。
秋の夜の風はとても心地よく、頬をかすめた。

しばらく歩いたところで、まゆらは口を開く。
「そういえば、幽霊には会ったコトないけど、神様には会ったコトあるなぁ〜」
「・・・はぁっ!?」
その発言に、思わず変な声を出してしまうロキ。
「なんかね、小さい頃にこの神社で遊んでたときに一度だけ・・・今思えば、違ったんだろうケドね。」
「ふ、ふ〜ん、そう・・・」


そんなやり取りをしているうちに、二人は境内に着いていた。
紙に名前を書きながら、まゆらは呟く。
「この辺りだったかなぁ〜・・・神様だって言う着物を着たおねーさんみたいな人とね、話をしたんだよぉ〜」
「わ〜かったってば、まゆら・・・・・・」
そのとき、まゆらが握っていたペンの動きが止まった。
そしてそのまま、まゆらは動かない。

「まゆら・・・?」


ヘンに思ったロキは、まゆらの顔を覗きこんだ。
すると、まゆらはゆっくり言ったのだ・・・・・・・・・・・・・・


「我は この神社を守る、守り神なり。」
「・・・なに・・・守り神、だって?」





初めはまゆらの冗談かと思った。だが瞬間、その考えは打ち砕かれる。

(まゆらは、誰かに操られている・・・?)

まるで、着物を着ているかのようにしとやかな仕草、いつもの好奇心旺盛な瞳とは対照的に、落ち着いて何かを見つめているような眼差しは、どう見てもまゆらではなかった。
「するとお前は、本当にこの神社の神なのか・・・?」
まゆら・・・もとい、まゆらに乗り移った神はゆっくり頷く。
しかしロキを見据えると、目を細めて睨むように眉をつり上げた。
「・・・お主、ただの人間ではないな・・・何者だ!?」
守り神の言葉に、ロキはにやっと笑って、言った。
「お前と同類さ、神様ってやつ・・・。」
「なにっ・・・!?」



二人の間にひゅうっと風が吹き、砂埃が舞った。



守り神は、ロキをまじまじと見つめている。

「しかし・・・お主は善の神ではナイな。・・・なぜ、こんな所に来た?」
「いかにもボクは邪神だケド、ここには用はナイよ。そんなコトより、そろそろまゆらから離れてくれないか?」
それを聞いた守り神は顔が変わった。
「お主が善の神でないと言うのなら、お主の言い分は聞けぬ。早々にここから立ち去るがよかろう!!」
そう言うと、守り神はきっ、と ロキを睨んだ。
「なんだよソレ・・・ボクが邪神なのと、お前がまゆらに取りつくのとは関係ナイだろ!?」
「・・・うるサイ・・・おとなしく出て行かぬと言うのなら、こちらにも考えがあるのじゃっ!!」

まゆらの姿をした守り神の手から、火の玉みたいなモノが出てきた。
そして彼女は、その火の玉をロキに向かって投げつけた。






バシッ!!





間一髪でロキはそれを避けた。上着がかすかに焦げている。
「・・・なにをするんだっ!?」
地面に倒れこんだロキに、守り神は迫ってくる。
「・・・出て行け・・この娘に近づくな・・・・・・」
明らかに、さっきまでと様子が違った。
「なんなんだよ、お前。まゆらとなにか関係があるのか!?」
「我は昔、あの娘と約束をしたのだ。・・・なにがあっても、守ってみせるとっ・・・!」
ロキに向かって叫んだ彼女は、また燃え盛る炎を投げつけてくる。

(まゆらは昔、神に会ったコトがあると言っていた・・・そして・・・)

打ち明けられた、昔の思い出。それが今、守り神の話と重なる。

ロキは俯き、微笑を浮かべた。


「・・・そうか、邪神であるボクは、まゆらの敵だと・・・」
「・・・その通りだっ!!!」




炎による攻撃はすさまじいものだった。
ロキはどうにかこうにか避けきるものの、逃げてばかりではきりがない。
あちらこちらに傷ができていて、そこから血が滲んでいる。

(本当の姿なら、戦えるんだけど・・・)

いつの間にか、ロキは壁際まで追い詰められていた。




―――結局ボクは、どこに居ても邪魔者なんだな・・・。




「ここまでだな、悪の神よ・・・・・・」
守り神はまゆらの顔で冷たい笑みを浮かべ、渾身の力を込めた。

(もう、これが限界か・・・っ)

ロキがぎゅっと目を閉じた、そのときだった。


「う・・・うわああああ〜〜っ!!」


守り神は、急に頭を抱え、もがきはじめたのだ。
「ま、まゆら様・・・なぜ・・・」


(まゆら・・・だって?)


ロキはそっと目を開けた。どうやら、まゆらの意識が守り神を止めているらしい。

『ロキくんにひどいコトをしたらだめ・・・ロキくんは・・・ロキくんは・・・・・・』

シュン、と 守り神の手から火の玉が消えた。そしてそのまま、立ち尽くしてしまう。
「まゆら様・・・解りましたよ・・・。」


守り神は静かにロキの方に向き直り、言った。
「悪の神よ、我はまゆら様との約束を勘違いしていた。そんな我にはこれから先、まゆら様を守っていく資格など ない。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「そこでお主に頼みたい。これから先、まゆら様を。」
「・・・え・・・」
「出来る限りでいいのだ・・・頼む・・・・・・。」
深々と頭を下げる彼女を見て、ロキはふっ、と 笑った。
「・・・まあ、そこまで言われたら断れないよねぇ〜」
「・・・ありがとう・・・・・・」



瞬間、まゆらからすぅっと煙が立ち昇った。守り神の意識が抜けたのだろう。

ロキにはなぜか、笑っている顔が見えたように思えた。






「・・・あれぇ・・・ロキくん・・・」
「起きたね、まゆら。」
「・・・ロキくん傷だらけじゃないっ!?どうしたの??」

傷だらけのロキを見て 一気に眼が覚めたらしいまゆらは、慌ててハンカチで血をぬぐった。
ロキは、照れたように笑う。

「ちょっとね〜」
「もうっ、心配させないでよねっ!」
「はいはい〜」

(まゆらには分かんないよな、邪神であるボクが、守り神にされた なんてさ。)

「なあにロキくん、何がおかしいのよぉ〜??」

ひとりでくすくす笑うロキに、まゆらは首を傾げた。







・・・・・・・・・・守り神さん、ロキくんはね、私にとって すごく大切な人なの・・・・・・・・・・・。








そのころ・・・?


レイヤ「和実サン〜次はレイヤたちですよぉ〜??」
ヘム「・・・・・・・・・・・・・」(口をぱくぱくさせて、放心状態)
フレイ「ヘム〜??どーしたのだ〜?」
ヘム「・・・言えない・・・ロキに罠を張っている途中で、本物の火の玉を見たなんて・・・。」





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