「ロキくん、しりとりしようっ!」
ロキの仕事机にどん、と身を乗り出している少女、大堂寺まゆら。
その机の上には、チェス、オセロ、将棋などのゲーム盤が山積みにされている。
その山の向こうで 少年、ロキははぁっと重いため息をついた。
「まだやるワケ、まゆら?」
ロキは指先でチェスのコマをぱちん、と弾いた。
午後。昼食をとってから暇をもてあましていたロキだったが、そこにチェスやオセロを持ったまゆらが現れ、彼は今の今までソレに付き合っていたのである。我ながら偉いね、とロキは思う。
「…ねぇ、たかがゲームじゃん。いくらボクに勝てないからって……」
「たかがゲームでも、まゆらちゃんは何に対しても一生懸命なのっ!ソレに、しりとりなら勝てるような気がするんだもんっ!」
単純なまゆらはロキの戦法に見事引っかかり、チェス、オセロ、将棋…全てにおいて負け通しだった。さすがの彼女も自分より年下の彼にここまでけちょんけちょんにされたら面目丸つぶれだったろう。
そこで彼女が出した最終勝負方法。
「いざ、しりとり対決よっ、ロキくんっ!!」
Party game!
言葉というのは難しいな、とロキは思う。
同時に無力。
いくら単語を並べても、彼女を止める術は見つからない。
「じゃあ始めるわよ、まずはっ『しりとり』!」
「……『りんご』」
「『ごま』!」
「『まり』」
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なかなか決着がつかない。まあ考えてみれば当たり前の話である。
ロキはなんだか疲れてきた。
こんなもの、余興にもなにもならないし。
「ねぇまゆら、相手に対して当てはまるコトしりとりにしない?」
「相手に当てはまる…?」
「そう。相手の代名詞になるような言葉を言っていくってワケ、どぉ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべるロキに、まゆらはうーんと首をひねる。
「…そうだね。普通のしりとりじゃあなかなか終わらないし…。」
「でっしょ〜!じゃ、ボクからね、『のうてんき』」
ルールが変わった途端、俄然張り切るロキであった。
まゆらはと言うと、彼の放った「能天気」という言葉に不服のようで、むーっと頬を膨らませると、批判の目を向けてくる。
「なんで私が能天気なのよぉ…じゃあ、ロキくんは…『きびしい』。」
「ボクって厳しい?」
「うん、すっご〜く!私がミステリィーってするとすぐにやめろって言うし…」
「まあまあ、そんなまゆらは『いいこ』だよ。」
「…ソレ、なんだか子ども扱いしてない?」
してないしてない、とロキは笑いながら両手を振って否定する。
「ロキくんは『ずるい』よっ!いつも私の考えなんてお見通しなんだもん。」
「ソレ、しりとりになってないじゃん、まゆら……」
「いいのっ!」
本末転倒である。
しかし相手がその気なら、こちらもソレにのるまでのことで。
「だいたい、まゆらは『あぶなっかしい』んだよね。見てると冷や冷やするよ。」
「あ〜っ!そういうロキくんだって『むこうみず』なところがあるじゃない!」
「いつボクが向こう見ずなコトしたってゆーのさ?」
「私、闇野さんから聞いたよ。散歩中、池に落ちたわんちゃんを助けるために泳げないのに水の中に飛び込んだって。」
「う…(ヤミノくんめ、バラしたな…?)でもまゆらの方が数倍『ぼーっとしてる』し、『何をしでかすか解らない』し……」
ロキの言い分に、ううう、とまゆらは詰まってしまう。
全て本当のことだからこそ、なにも言い返せないのだろう。
必死にロキの欠点となるような言葉を探そうとしているようだが、しばらくは見つかりそうもない様子だ。
一生懸命にくるくる瞳を動かす様子は、どこか小動物を彷彿とさせる。
それが とても………。
「まぁ、そんなところも『すき』なんだケドね。」
不意に、ぽつりと漏らした言葉。
誰に言うでもなく、伝える気もなかった言葉。
でも、彼女は聞き逃さなかったらしい。
「私も『すき』だよ?ロキくん!」
満面の笑顔を返し、まゆらは言った。
ロキは呆気にとられてしまう。
あれだけの小さな言葉、聞こえてたのか…?
心の呟きが顔に表れていたのか、彼女はずいっとロキの顔を覗き込んで、
「なんたって、まゆらちゃんは何に対しても一生懸命ですから!」
大切な言葉は聞き逃さないんですよーだ!と片目をつむって可愛くウインク。
それをみたロキは、ふうっと目を細めた。
「『こうさん』だよ。やっぱりキミには敵わないや。」
果たして軍配はどちらに上がったのか。
結果の見えない、LOVE GAME。
奈緒さまのリクエスト、ロキまゆ小説でした〜
どうもありがとうございました!
