人って、『限定』に弱いよね。
そんなに欲しくないモノでも、「限定品です」って言われると 買わなきゃいけないような気分になっちゃう。

コレもそういう理由で選んだつもりだったんだけど、

ううん、ちょっとはそうじゃなかったかもしれないけど、

・・・本当は、あの人の顔がふっと頭に過ぎったからなんだけど。



風味限定



「桜乃ぉ〜決めた〜??」
「う〜ん・・・うん!コレにする!!」


親友の朋ちゃんと私、竜崎桜乃はただ今コンビニに来ております!

今日は部活が休みだったから 放課後、教室でおしゃべりをしていたら、とんでもなく帰る時間が遅くなっちゃって。
気づいた頃には、部活帰りの人たちと同じくらいの時刻。

朋ちゃん曰く、「長いことしゃべってると、口の中がカラカラになっちゃう。」とのことで、私たちはジュースを買って飲みながら帰ることにしたのです。

「めずらしーね、桜乃がそんなにすぐ決められるなんて。」

いつもはアレコレ悩んでなかなか決められないのに、と感心したような顔の朋ちゃん。
私は えへへ、と照れ笑い。

「うん、だってコレ 期間限定って書いてあるんだもんv」


そう げんてい。


・・・・・・・・・・・・・ファンタの サワーポメロ味。




ありがとうございましたー と店員さんの声に見送られ、朋ちゃんと私はコンビニを出たのでした。



「なに味なのよ、ソレ?」

店を出るなり私の腕の中を覗き込む朋ちゃんは、缶に書かれている文字を見て ぎょっとしてる。

「サワー・・・なにコレ??」
「えっと・・・たしかねー、ミカンの知り合いだったと思うよ。」
「ミカンの知り合い??・・・味解るの、アンタ・・・」
「う〜ん・・・飲んでみれば解るんじゃないかなぁ?」

じゃあ今すぐ飲んでみてよ!という朋ちゃんの要望により、缶を開ける私。
中からは、酸味の詰まった香り。うん、匂いは悪くない。
飲んでみる?と缶を差し出したけど、そんな得体の知れないモノは飲みたくないらしく、ぶるぶると首を振っている朋ちゃん。
仕方なく、ぐいっと飲むと・・・・・・・・・

「・・・・・・けっこーおいしいよ、コレ。」
「えー!?・・・でも、私は飲みたくない!」
「・・・そおかな・・・?」

・・・・・・私のコメントに、朋ちゃんは不服みたいです。




「あれ〜桜乃ちゃんじゃ〜ん!」

呼ばれた声に はっと顔上げると、人懐っこい笑みを浮かべている桃城先輩。
男子テニス部の皆さんはこんな時間まで練習だったんだ。
先輩たちの後ろに、リョーマくんも くっつくように立っている。

「ごっ・・・ごくろうさまですっ!」

私が がばっと頭を下げると、なぜかその場に笑いが溢れる。

「ところで桜乃ちゃん、なに飲んでるの?」
「えっ・・・あっ・・・ファンタです!」

にこにこと笑っている不二先輩に聞かれ、慌てて答える私。

「ふ〜ん、いいな〜ソレ。俺たちもなんか買ってくか〜」

ぞろぞろとコンビニに入っていく先輩たち。
リョーマくんもそれに続く・・・のかと思いきや。

「ね、ソレ なに味?」

立ち止まり、私の持っている缶をじっと見てる。

「えっ・・・サワーポメロ・・・」
「ふーん・・・俺、これまだ飲んだコトない・・・美味い?」

上目遣いで覗き込んでくるリョーマくん。
・・・・・・・・どぎまぎしちゃうよ〜



「えっ・・・よくわかんない・・・かも・・・。」

私はおいしいなーと思ったけど一口飲んだだけだし・・・朋ちゃんも賛同してくれなかったし・・・
・・・・・・自信がなくて。


目が 合っちゃったから。

私、何も考えないで はいっと飲みかけのファンタを差し出してた。
リョーマくんはソレを黙って受け取り、ごくごくと飲んで。
横では、固唾を呑んで見守る私。


おいしい?おいしくない??


頭の中は、それでいっぱいだった。

「ど、どうかな・・・?」

私の問いかけに、リョーマくんは無言で缶を差し渡す。
・・・なにも言わないってことは、おいしくなかったってコトかな・・・?


リョーマくんにも同意してもらえなくて、ちょっと悲しい気持ちでファンタをすする私。
すると、横で朋ちゃんが声ならぬ声を発している。

「ん?どうしたの、朋ちゃん??」
「・・・どーしたのじゃないわよぅ・・・アンタ・・・」
「えっ??」

青なのか赤なのか分からない色の顔をして、朋ちゃんは私の方を指差し、あんぐりと口を開けてる。
その指の先を辿ると、ファンタ。

「もしかして、私がリョーマくんの触った缶を持ってるから?」

ぶるぶる。

首を振る朋ちゃん。

「えっと・・・じゃあ、リョーマくんが飲んだジュースを私が飲んじゃったから・・・って、えっ??」

顔から、火が出たかと思った。
自分のしたコトの重大さに気づいたときはもう既に遅し。


私、飲んじゃった。



・・・コレって・・・コレって・・・・・・・・・



「間接・・・きっ・・・??」

最後まで言葉に出来なくて 思わずリョーマくんの方を見ると、
リョーマくんってば、にやっと笑ってこう言ったんだ。

「まだまだ だね。」
「・・・・・・・・・っ!?」


そのまま、涼しい顔をして歩いて行っちゃうリョーマくん。


その背中をぽかーんと見送る私。


きゃーきゃーと暴れる朋ちゃん。




もう、味なんて わからないかも――――




半分以上残っているファンタの、

しゅわっとした炭酸が、熱い頭に優しくしみた。





多田野さまリク、「間接キスリョ桜小説」でした。
どうもありがとうございました!

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